激情。 ページ41
お手上げだと言うように両手を広げて見せる男に脳の血管がはち切れるかと思った。
「気分が悪いと言うから静かな所に連れて来て介抱してたってのに、そんな言い方をされるのは心底心外だな。そもそもこれって隊律違反じゃないか?分かったら手を離せよ」
「そうか。俺は匂いで貴方の考えていることが大体分かるが、今はそれを目に見える形で証明出来ないのが残念だ。貴方からは凝り固まった嘘の匂いがする。邪な目的で彼女に触れたことも、誰かに見つかるのは想定していなかったことも、全て匂いで筒抜けだ」
離せという言葉を無視してさらに強く胸倉を掴み上げて下から本気で睨み付ける。
「俺のやった事が隊律違反だと言うなら、正式に訴えればいい。ただしその時は俺も貴方のやったことを正式に訴える。こんな風に女性を連れ込むのはこれが初めてじゃないだろう。嘘はいつかどこかで必ず明るみに出るぞ、覚悟しておけ」
ぐぅっと低く男の喉が鳴ったのを耳にして、掴んでいた服を離し、すぐにAの方へ駆け寄った。気分が相当悪いのだろう、体を横にしてんー、んー、と低く唸っている。
「A、大丈夫か。俺の声は聞こえているか?」
「ん、え......たん、じろう?」
「そうだ。今から蝶屋敷にお前を送るから、掴まっていてくれ」
Aの脇の下辺りと膝裏に腕を通して、そのまま横抱きにして持ち上げた。筋肉がきちんと付いているのだろう、軽いうちには入るだろうが、思っていたより重かった。ふわりと酒の甘ったるい匂いが鼻を擽る。
宙に浮いた感覚に驚いたのか、腕の中でAが「ひっ」と小さく息を詰まらせた。察するに恐らくまだあまり状況が飲み込めていないようだ。俺から解放された隊士は逃げるように部屋から出て行った。正直二度と顔も見たくない。次にあの人の顔を見たら問答無用で頭突きをしてしまいそうだ。
兎にも角にもAを送らなければならない。本来ならAの屋敷に送り届けるのが1番良いのだろうが、気分がかなり悪いようなので誰かに介抱して貰った方が良いだろう。Aは、基本的に屋敷では一人で過ごしていると聞いた事がある。恐らく自邸には、Aを介抱してくれる人間は居ない。ここからなら蝶屋敷が一番近いし、アオイさんあたりに事情を話せば分かってもらえるだろう。
廊下に出ると、まだ宴の喧騒が続いていた。俺はAを連れて、出口へと足早に向かった。
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さざんか(プロフ) - 外で思いだすだけでキュンキュンして泣きそうになります…素敵な作品をありがとうございます!新作アンケも失礼しました…! (2020年11月14日 0時) (レス) id: 20c7caba78 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 久しぶりに心から焦がれる素晴らしい作品に出会えて嬉しいです^ - ^本格的に冷え込む季節となりましたので、体調にはお気をつけてお過ごし下さいませ.更新を心待ちにしております (2020年11月13日 0時) (レス) id: e9e3f41ae9 (このIDを非表示/違反報告)
花帆 - 初めまして、めっちゃ面白いです!!すごくキュンとしますっ/// 炭治郎の態度の急変…切ないです(泣)続き気になりすぎます…!!続編も全集中で拝読したいです(*^▽^)/★*☆♪応援しております!! (2020年11月11日 2時) (レス) id: aa0adc990d (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 更新大変だと思いますが、とても楽しみにしています。これからも応援していますね。新作アンケート…冨岡さん好きなので、お願いしたいです。 (2020年11月7日 6時) (レス) id: 91f917202d (このIDを非表示/違反報告)
しろ(プロフ) - 久々にドキドキする話でした、、続き楽しみです! (2020年11月6日 20時) (レス) id: f83c25335c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:子@さぶ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/8ef4f72c271/
作成日時:2020年10月24日 12時