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初デート。 ページ26

(一体、何を着ていけばいいのかしら……)


ベッドの上に散らばった、清楚シンプル一辺倒な服たちとにらめっこしながら眉を寄せる。

日付はあれよあれという間に進んでいき、蘭さんとの約束の日はついに明日というところまできてしまった。きてしまったというのに、明日着ていく服が一向に決まらない。

あまり気張った服装で出掛けると母に怪しまれてしまうし、かといって飾り気のなさすぎる服で彼の隣に立つと浮いてしまう。

そもそも、明日は何をしに出掛けるのだろう。まさか勉強でも教えて下さるわけもなし、彼がよく足を運ぶらしい六本木に連れて行かれたりするのだろうかと思うとやや気が重たいのだけれど。どこに行くかさえ分かれば、それに服装を合わせられるやも……

私はちらりと、勉強机の上に置いたケータイを見やる。今の時刻は夜の9時。こんな時間に電話なんてかけたら、やっぱりご迷惑かしら。そう思いつつも、頭の中にあの人の顔が浮かんでしまえば、途端にあの、艶っぽく響く声を聞きたくなってしまい、気が付けばベッドの上に座り込み、ケータイを握り締めていた。両手で握りこんだケータイを操作しながら、両親が部屋へ入って来ないかときょろきょろ緊張しつつ、彼の名前を探し出す。

「灰川蘭」の文字を見るだけで、うっと怯んでしまうのだけれど、震える親指の先で、通話のボタンを押してしまえば、もう後戻りは出来なかった。機械的なコール音が、心臓の音に重なって、いつもとはなにやら違うものに思える。嫌だわ私、電話を掛けるだけで何をこんなに緊張しているのかしら。大事な試験前だって、こんなに胸がバクバクしたりしないわ。

こんなにも私が緊張していることなぞ露も知らないのだろう、蘭さんは中々電話に出なかった。コール音が重なる度に泣き出してしまいたくなりながら、どんどん後悔の念が襲ってくる。やっぱり、こんな時間に電話だなんて、ご迷惑だったのだわ。もしかしたらもう寝ているかもしれないし、ご用事があるのやもしれないし……

勝手に思念を膨らませている私の耳に、ぷつり、と通話が繋がる音が飛び込んできたのは、本当に突然のことだった。通話が繋がる前に合図をして欲しい、と思ったのは、きっとこれが最初で最後かと思われます。


『もしもし?』


びゅん、と背筋が伸びた。その声を聞いたのは、随分久しぶりに思われた。実際には、数日しか、経っていないのに。


「あ、……ら、蘭さん、こんばんは」

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名無 - 神すぎる。占ツクでここまで完成度の高い作品は久々に見ました。 (2022年2月13日 13時) (レス) @page25 id: 918f2226ec (このIDを非表示/違反報告)
桜妃(プロフ) - 作者様語彙力ありすぎでは…!?更新楽しみにしてます! (2021年9月6日 3時) (レス) id: 16f20e3b96 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぴ子(プロフ) - はじめまして…こんなに作品に引き込まれたのは初めてです;;主様のペースで更新楽しみにしております! (2021年8月26日 12時) (レス) id: de92cbd6b8 (このIDを非表示/違反報告)
しいい - すごく好きです!続き楽しみにしてます!! (2021年8月26日 1時) (レス) id: 69df95b685 (このIDを非表示/違反報告)
沙羅(プロフ) - 大っ好きです!蘭ちゃん…可愛すぎる…更新楽しみにしてます\(//∇//)\応援してます! (2021年8月25日 22時) (レス) id: f64d60a5d5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:子@さぶ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/8ef4f72c271/  
作成日時:2021年6月30日 23時

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