・ ページ26
時雨side
あれからずっとここに居座っているわけだが、沖田さんのアレは本当に事情聴取になっているのだろうか。
核心をついてくるわけでもなく、ただただ自分たちのことを少しずつではあるが紐解いていく。そんな感じ。
「……おはよーごぜーやす」
「おはようございます」
「今日は俺も一緒に食ってやりまさァ」
「えっと、ありがとうございます？」
あれからわかったことだが、沖田さんは偉そうにするのが好きらしい。(←ドSという言葉を知らない)
「じゃ、質問。誕生日」
「たぶん二月十七日です」
「生まれ」
「地球、ってことなら」
「人間か、天人か」
「人間ですね。見たらわかりますよね。いじめなんですか。そうなんですか」
「はい次、あんた攘夷志士ですかィ」
「違います」
引っかかるところだった。
「引っかからねぇか…」
やっぱり引っ掛けようとしてた。つくづく頭がいいのか悪いのか。
「じゃ、あの時殺したのは」
今まで安心しきっていたが、今自分は崖っぷちにいるんだと再認識させられる。たった一言で。
「……なんでですかィ」
もう私が犯人だということは決定事項らしい。
「……命の危機を感じました。それだけです」
「正当防衛ってか」
もちろんそれ以前に刀を持っていたことが問題だが。
「……はい」
「詳しく聞こうじゃねーかィ」
「……あの日、私は三日ほど前にはぐれた兄を探して歌舞伎町を歩き回ってました。
路地裏に連れ込む変な人とか、“紅眼”だとなんとか言って追い回してくる人もいました。
それで、中でもあの人たちは抜刀して追い回してきて、咄嗟に抜刀して戦いました。
気付けば周りは血の海で、あぁ、また自分のために殺したんだと知りました。
その後は……よく覚えてません」
「へー、で、そのあかめとやらはなんのことでィ」
「ッ、知りませんよ、そんなの！！私のどこが特別で、私のどこがあなたたちと違うって言うんですか！！……………もう、わからないんです！」
段々と視界が霞んでくる。嫌われる。そんな気がした。
「……なんでィ。しらねーのかよ」
ほら、嫌われた。人ってものは脆い。
そんなこと、ずっと昔に知った。
昨日までは仲が良かった子も次の日に会えば家畜を憐れむ目で見てくる。
理由は簡単だ。私が松下村塾の人間、それだけ。
唯一の居場所は松下村塾。
歌舞伎町に来た途端これだ。
どんどん抑えきれなくなった涙が畳にしみを作っていく。
刹那、なにかあたたかいものが私を包み込んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 103人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：花遥 | 作成日時：2019年10月3日 22時
