第一話 ページ2
しとしとと、雨が降っている。
「……、……ぬ！」
しとしと、しとしとと。雨は振り留まるところを知らない。
パチパチと、薪の爆ぜる音も聞こえる。
森の木々の雨音が聞こえる。土に水が染み込んだ匂いが鼻につき、どこまでも自分を包んでいく。
「……ぬ！ きゅぬん！」
昼寝のお供にはピッタリのカルテットに、もう少し身を委ねたい。そんな儚い思いは、顔に擦り付けられる湿った鼻の感触の前に脆く消え去った。
寝ていた男＿＿Nは、その鼻の持ち主を確かめるべく顔を起こした。
すると、そこにいたのは黒い、小さな狐のようなポケモン、ゾロアだった。
ようやく目を覚ました主に嬉しそうに体を擦り寄せてくるゾロアを抱えあげると、Nは当たりを見渡す。
「ボクは……確か、崖から足を滑らせて、足をくじいて……」
そう言ってから、Nは己の足を見た。
確かに脱臼していたと思っていた足首はきれいに整復され、水に濡らしたハンカチできっちりと縛られている。
「誰かがここに運んでくれて、応急処置までしてくれたのか。ゾロア、僕を助けてくれた人は誰かわかるかい？」
【茶色い髪に黒い目の女の人だったよ！ 青いポケモンと一緒でね？ 歩ける道を探す、って行っちゃった】
青いポケモン。プルリルにハクリュウやミジュマル辺りだろうか。キバゴの色違いも青いと聞いている。
なにはともあれ、見ず知らずの自分を助けてくれたのだから、礼は言わねばならない……そう考えていると、向こうから人の気配。
【あ！ あの人だよ！】
ゾロアが短い足で一生懸命に向こう側を指す。
そこには、茶色いジャギーのような髪に黒い瞳。この寒空には寒いであろう肩出しの服とキュロットパンツを着た少女がいた。
隣にはコリンクを連れており、主が身をはたく横で盛大に身震いをして水しぶきを落としている。
少女の方が、ふぅと一つ息をつく。
その後、Nの方を見て気づいたかのように声を上げた。
「よう、目、覚めたみたいだな」
「……あ、ああ」
豪快な少女だな、と歯に衣着せずNは思った。
だが、実際少女の今の口使いはそこまでよろしいものではなく、男勝りなものであると言えるものですらあったから、Nの反応も真っ当なものだろう。
少々意外だった少女の口使いに一瞬戸惑いながらもNは礼の言葉を口にした。
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作者名：綾水鏡花 | 作成日時：2022年12月18日 20時
