10 ページ11
薄暗い実験室と思わしきそこは、薬品臭くて落ち着かない。
薬屋とはまた違った臭いが鼻をつんざく。
指差しで示された古めかしいソファに座ると、ギジリと鈍い音が鳴った。自分をおいて正面に座るAの顔はいつも以上に静かだ。
「俺がファデュイであることはもう気付いてるようだな。」
先に言葉を切り出すとは。声には出せないが驚きが顔に出る。
「隠す気もないのかお前。オイラだったらそんな事しないぞ。」
「嘘をついた訳では無いからな。確かに俺はファデュイだが、スネージナヤを離れてだいぶ経つ。帰ったとて年に一回。それも数日と言ったところだ。」
「それも嘘じゃないのか〜?」
「相変わらず面倒だな白いの。」
「白いのって呼ぶな!オイラはパイモンだ!!」
目の前に出された紅茶にさえ、疑いの目を向けてしまう。
自分たちが部屋に入ってから用意されたとはいえ、器に毒が仕込まれているかもしれない。
そんな疑念が頭の中に残る。
「お前たちをどうしようとは思っていない。このお茶も、ニィロウから貰ったものであり、自分で飲むつもりだったからな。毒を仕込む余裕もないぞ。」
そう言いながら、自分の前に置かれたカップに手をつけた。
言動とは裏腹に美しい所作で紅茶を飲む姿から、本当のことを言っているのだと察する。
ならばと、ひとつ掛けに出た。
「これからいくつか質問をするけど、俺の質問にちゃんと答えて欲しい。嘘はつかないで。」
「旅人、そんなことをこいつが守るはずないだろ!」
パイモンはずっと不安そうな顔で旅人の横にいる。
だが、そんな言葉を覆すように、Aは返事をした。
「ああ、勿論。嘘はつかない。」
「じゃあ、まずひとつめから。」
34人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ