�� ページ10
…それから。
俺の英語のレッスンは続いた。
この頃には、やっと簡単な文章なら訳せるようになってきていた。
「えーっと、ミケは速く走ることができます、ってこれ、ネコのこと言ってるの？」
「ミケ、じゃなくてマイクね。」
Aが優しく訂正した。
「あとはちゃんと訳せてるよ。
簡単な本ならそろそろ読めるんじゃない？」
Aはそう言ってくれたけど、なかなか俺には自信がない。
そっと目の前に置かれた本の題名は「Romeo and Juliet」と書かれている。
薄くて子供向きみたいだったけど、手を出す勇気がなかった。
「大丈夫。本って難しく考えないで、短い文章の連なりって思ってみて。」
不安そうな俺を見て、Aがゆっくりと言った。
「…じゃあ、このテキストが全部終わったら挑戦してみよう？
そうすれば、きっと基礎は身についているはずだから。」
不安な色が消えない俺を気遣って、Aがそっと撫でるように提案してくれた。
英語を読むなんて怖いものじゃないはずなのに、何でこんなに不安なのか自分でもよくわからないけど。
「…うん、そうする。」
ゆっくりと頷くと、Aが笑って、俺を励ますように肩をポンと叩いた。
…
「ただいまー…」
「おかえりなさい。」「おかえりー！」
「…おかーり」「おかえり。」
4人それぞれの返事が聞こえて、思わずクスッと笑った。
顔が見えなくても、誰がどの声だか分かるから不思議だ。
「リーダー、遅かったね。どこまで行ってたの？」
ひょこっとキッチンから顔を出して雅紀が俺に尋ねた。
「んー、ちょっと。ね…」
なんとなく濁らすと、雅紀は不思議そうな顔をしたものの特に食いついてくることもなく
そう、と言っただけだった。
鋭い和と潤はちらりと俺を見たものの、2人とも何も言わずに、和は持っていたゲーム機に、潤は雑誌に視線を戻した。
ドキッとしながらも平静を装って、リビングのソファに座ると
翔くんがコーヒーを持って近くに寄ってきた。
「隣、いい？」
「ど、どうぞ。」
「ありがとう。」
…静寂がリビングを包んだ。
何をするでもなくぼんやりとソファに座る。
みんながみんな思い思いに過ごしている、この時間が大好きだ。
ふと窓の外を見ると、気持ちよく晴れた青い空に飛行機雲が一直線に走っていた。
「…きれーだなぁ。」
ポツリと呟いたその言葉に、翔くんが小さく笑った。
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