�� ページ9
「じゃあ、基礎からね。」
Aが本棚からテキストを引っ張り出した。
「基礎からの英語 中学生用」って書いてあるけど、
そういえば、俺って英語の勉強ってしたことあったっけ…
こんなことなら、翔くんに教えてもらうんだった…
「俺、その…学校とかあんまり行ってなくて。
本当に最初っから…になっちゃうと思う。」
…あんまり、というか全く、なんだけど。
言うなれば、日本語もまともに勉強したことないんだけど。
モジモジと視線を彷徨わせる俺を、Aは笑ったりせずに持っていたテキストを仕舞った。
「じゃあ…こっちの方が良い？」
Aがおずおずと新しく出してきたものは、さっきよりもポップな表紙で、どうやら子供用っぽい。
「うん。ありがとう。」
Aは俺に座るよう促すと、自分はテキストと紙を数枚とシャーペンを持ってきてから座った。
「最初はアルファベットから。」
Aはページを一枚開いてそう言った。
カラフルなページの中にいろいろ文字が書いてある。
「これ、私が使ってたやつなんだ。
ちょっといろいろ書いてあるけど、ごめんね。」
Aがそう言って笑った。
確かに、ちょこちょこと欄外に走り書きがしてあったり、絵が描いてあったりしている。
「ふふ、全然気にしてない。」
俺の言葉に、Aが良かったと笑い、勉強が始まった。
「英語はAからZまでの26文字で成り立っているの。
それぞれ大文字と小文字があるから、52文字になるわけだけど。」
「うん…A、B、C、ってこれ全部覚えんの？」
「覚えられなきゃ、英語の文章なんて読めないよ？」
「うえー…」
ぐだぐだ言いながらも、なんとか覚え始める。
「覚えるときは発音も一緒に」とAが言うもんだから、頭がパンクしそう。
「何度も唱えてれば覚えられるよ。」
とりあえずこれを覚えないと英語は始まらないらしい。
Aの言葉を励みに、呪文のように唱え続ける。
ふと時間を見ると、散歩の時間をとっくのとうに過ぎていた。
慌てて立ち上がって帰る準備をする。
Aは急な俺の行動に驚きながらも見送ってくれた。
「覚えられたら、また来てね。」
そう言って綺麗に笑うから。
「またね。すぐ覚えてくる。」
外はまだ冬の寒さが残る風が吹いていたけど
俺の心はポカポカ暖かかった。
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