☆ ページ27
炎を操って身を隠すのも、そろそろ限界がきていた。
ゲンジだって優秀な能力者、そろそろ状況の変化にも対応してきているはずだ。
シュンッ…
そんなことを考えていた矢先、耳元を鎖が掠めて鋭い痛みが走り、血が飛び散るのが横目で見えた。
「翔さ…」
「危ないっ！」
声をあげたジュンの目の前に迫る鎖を叩き落とすと、ジュンが喉の奥でヒッと唸った。
「…そろそろ、決着をつけないと。」
目の前を見据えて呟いて、隣を見た。
カズとジュンは何も言わずに、俺の横で身構えているけど、2人とも瞳の奥には恐れがある。
…当たり前だ。
遊びでも訓練でもなく、これは命がかかった戦いなんだから。
2人にその覚悟を決めさせるのは…さすがに酷だ。
目の前で燃える炎。
立ち込める黒煙。
鋭く空気を切り裂く、鎖。
…さあ、行くんだ。
ちらりとカズを見ると
カズも俺の瞳を見て…ゆっくりと瞬きをした。
それからふわりと手を振ると
ジュンとカズの間に薄い膜がかかった。
「カズ⁈」
ジュンは驚いて声をあげたけど、カズは黙って俺を見ていた。
悔しそうにその瞳は光っていたけど、カズも、そしてジュンも何も言わなかった。
2人が俺の考えを汲み取ってくれたのに感謝して、ゆっくりと前へ向き直る。
…さあ！
俺はダッシュで炎の中を駆け抜けると、鎖が飛んでくる角度から相手の位置を計算した。
…やるなら一瞬で仕留めなければ。
赤い髪がゆらりと揺れた。
静かに息を潜め、炎に紛れる。
今か今かと砂漠に潜む、赤く光るサソリのように…
「くそっ、どこ行ったんだ…」
ゲンジの悪態がかすかに聞こえ、燃え盛る炎の間に一瞬彼の姿が見えた。
…今だ！
勢いよく炎の中から飛び出して、ゲンジの前へ躍り出た。
ゲンジの目が驚いて開かれ、訪れた一瞬の隙。
ゴオッ…
両の手を前へ突き出し、全力で炎を噴射した。
「ぎゃああああっ！」
ゲンジの断末魔の叫び声が、夜の森に木霊した。
…
炎を消し去り、辺りを見渡すと
なかなかの惨状だった。
森の一部は焼けて黒くなり、ゲンジは全身火傷状態。
俺は瞬きせずにしっかりと見つめた。
…もちろん殺してはいない。
俺は警察へと通報すると、その場にふらふらと座り込んだ。
「翔さんっ！」
俺を呼ぶ声がして見ると、カズとジュンが俺を見つけて近くまできていた。
「良かった…無事で。」
2人の姿を見て安心すると、俺はその場で意識を手放した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 474人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
