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凄まじいスピードで上昇していくフライゴンに、
ぎゅっと目を固く閉じて無我夢中で捕まるしかなかった。
体にかかる重力を感じながら、
その状態に耐えることおよそ２０秒。
ふっ、と体にかかる力が軽くなるのを感じた。
別に高所恐怖症じゃない。
この短時間で酔ったとかでもない。
ただ、この状況に頭がついていかなかった。
静かに風の音と、とりポケモン達の羽音だけが聞こえる。
"目を開けろ"
声が、後ろから聞こえた。
ダンデくんとは違う、
低くて聴き慣れない声が。
そんな声の通り、私は、ゆっくりと瞼を開いた。
『…わぁ……。』
そこには。
普段では、決して見ることの出来ない、
美しくて荒々しい、
生命に満ち溢れたワイルドエリアがあった。
湖で、川で。
空で。
大地で、砂漠で、雪原で。
それぞれの場所で、ポケモン達が生き生きとしてる。
体をぶつけて自らの強さを示したり、
きのみをのんびりと食べていたり。
まるで、このガラル地方から
ここだけ切り取られたような神秘的な情景で、
おもわず私は息を飲んだ。
「いいだろここ。オレ様の秘密の場所だ。」
振り返ると、声の主はニカッと笑っていて、
いつ買ったのかわからないドーナッツを差し出してくる。
フライゴンは空中で体勢を安定させており、
揺れもほぼなかったので、
くるっと背中の上で向き直り、ドーナッツを受け取った。
どちらも無言で、風の音だけが聞こえる静かな空間。
『よく、みにくるの？』
「たまにな。」
『そう。』
そっけない、短い会話だったけど、
この沈黙は、少し心地よかった。
試験官さんはドーナツを食べながら、
ワイルドエリアのポケモン達を熱心に観察していて、
その間、私の方を一切みなかった。
私はただただ無言で試験官さんの横顔を
ガン見しながら、ドーナツを食べ続けた。
ドーナツを2人とも食べ終わったのは5分後。
そこからキルクスタウンに向かう途中で、
試験官さんは久々に口を開いた。
「なぁ、お前、いくつだ？」
『たぶん、15歳。
そっちは？』
「オレ様は17。
ま、あんま変わんねーし。敬語はなしな？」
『試験官さん。やっぱ歳上だったんだ。
年下ではないと思ってたけど。』
「は？いや、おいおい。
まさかオレ様の名前………。」
『…ごめん。』
そう。この日覚えたの。
試験官さんの名前が、キバナってことを。
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作者名：志那 | 作成日時：2020年5月13日 13時
