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「瑛一、ちょっとトイレ行ってくるわ」
「おっけい、僕の部屋出てすぐ左のドアね」
「もう何回も来ているから分かりますー」
僕のお家で勉強会、という名目でAさんと一緒にいた。スマホがAさんの手から離れるチャンスをうかがっているのだが、なかなかそれが訪れない。今だって、スマホと共に席を立ってしまった。
彼女のパスワードを反芻する。何十回心の中で唱えたことか。僕が悶々として問題を解き進めていると、すぐにAさんは戻って来た。ちゃっとスマホを机の上に置く。そして、彼女は再びシャーペンを握る。
なんなら、もう直接言ってしまおうか。帆立君がAさんのスマホをいじっているのを見たこと。そして二人の関係性について…。
「あら!Aちゃん、来てたの!知らなかったわ、言ってよね瑛一。あ、そうだAちゃん、もしよかったらご飯食べてって!Aちゃんがいるなら、おばさん頑張っちゃう」
僕が口を開こうとしたところで、急に母さんが部屋に入ってきた。あっぶねえええぇ!一歩ミスればいろいろとヤバかったぞ!!というかドアをノックぐらいしてくれ!!プライバシーなんて微塵のカケラもないぞこの家は!!それよりも…いつ、僕の母さんとAさんは知り合いになったのだろうか。若干の恐怖心が生まれる。
そんな僕の心情はつゆ知らず、二人は穏やかに談笑をしている。
「え、じゃあ私、料理お手伝いします!」
「いいの?なんだか悪いわね…でも嬉しいわ」
そして二人はいそいそと階下へ。
「あっ、瑛一。私ちょっとお義母さんとお料理してくるから。瑛一は一人で勉強でもしててよ」
「りょうかーい」
バタバタ、パタン。
一連の会話が終わった後、逆に静かになりすぎたこの部屋に僕は一人。
そして、目の前にはAさんのスマホ。
これは…チャンスなんじゃないか?
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作者名:稲穂 佳子 | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2019年3月15日 15時