契り【狗巻棘】

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｢…Aは絶対に他の男に渡さない｣


その為なら、泣き叫ばれてでも傷つけてでも、Aを抱く。

呪言が効かない私でもヒリヒリと肌を抉るような何かを感じるほど力が込められた言霊が己の体を突き立てる。

薄暗い照明と彼のサラサラとした色素の薄い髪の毛がコントラストを描く。乱れたシーツが擦れる渇いた音が轟く。

締め切られている窓に備え付けられているカーテンの間から夜の背景が滲みだし、溢れかえる。

蛇の目がちろりとこちらを伺う口元から紡がれたその言葉を聞いて棘君が私の処女を奪って身体的に婚姻の契りを交わそうとしてるのだと理解した。


女が当主となる常峰家には古くからのしきたりとして処女性を重要視している。
それは勿論、自分達の遺伝を繋いでいくためであり、他所の血を間違ってでも混ぜない為である。
そのため嫁ぐ者であっても必ず結婚をする相手に初めてをもってして契りを交わす必要があるとされている。

そう。彼はそれを利用して私との婚姻を絶対のものにしようとしているのだ。

棘君がどういう感情を持って私と契りを交わそうとしているのかなんてわからない。ただの駒として必要としているのかもしれない。それでも、気づいてしまったこの感情。

私を欲する愛しい人
家の為に私を必要とする父
棘君の手を取りたいと願う私

それら全てが混ざって掻き回されてぐちゃぐちゃと効果音をたてる。どうしたら良いのかもわからず体と心が引き裂かれるような痛みに襲われる。


熱と欲を孕んだ口づけを何度も何度も、繰り返され思考が身体が全てがぐずぐずと彼に酔い始める。胸の奥が葛藤と疼きを訴え今すぐに彼が欲しいと叫ぶ反面、理性が脳裏に父の横顔を見せつける



｢…全部任せて｣

大丈夫
愛してる
だから、俺に身を委ねて

砂糖のような甘さと飴のような苦さが混ざりあった言霊がストンと己の身体の奥の底へと辿り着く

どろどろとした欲と熱をみせる愛に塗れた目が私の体を見下ろす

ああ。棘君をこんな表情にさせたのは紛れもない自分なんだ。そう理解した途端、満たされるような生あたたかい感情が自身を埋めつくした。そしてそれらの感情が己の口を開かせる



｢…っ良いよ。棘君が好き。だから、私を抱いて｣
｢…だから、私のことをちゃんと愛して｣

だから、契りを結ぼう


私の口から綴られた答えを聞いた言葉を紡げない彼の口から息を飲む音が木霊する。

ぼんやりと霧ががって見えていた愛しい人の全てがクリアに見えた




｢しゃけ｣

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