手のかかる後輩くん【二口堅治】

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「っってぇ」



今度は本当に痛かったのだろう
表情を歪ませながら


痛いと言葉を吐き出す、後輩



そんな彼の魔の手から素早く逃げだす。





「せ、…先輩を、からかうのが悪い」



大きく乱れる、呼吸を抑え込みながら
加速する鼓動をなだめながら



マスク越しに暑くなった頬を触る。




俗にいうかっこいいの部類に入るであろう

二口に迫られたら誰だって緊張するに決まっている。




はやく

はやく


はやく落ち着け



呪文のように何度も連呼する




他人に
誰かに


素顔を見せることに対して

いつからこんなに抵抗を持つようになったのかも忘れてしまった。




中学のときのクラスメートの男子達の言葉が脳内でリピートされる。




「葉鳥ってなんか見た目だけだよな」
「たしかに見た目すごい綺麗なのに性格、真っ暗みたいな」




見た目だけで人に判断されたくない

自分自身を見てほしくて



高校にはいってからずっとマスクをつけて顔を隠してきた。


お昼も常に一人で携帯をつつきながら済ませるし
何かを飲むときだって一人のときに限定している



いままで頑張ってきたこの努力を





それをこの生意気な二口なんかに壊されてたまるものか。




茂庭やこの部のみんな、二口だってそんな最低な奴ではないと思っている


いつか本当の笑顔で笑いあいたいとも思う




でも、


でもね




「いってぇ…っ、ほんっと鳩尾とか女の欠片もないっすねっ」


「…うっさい、あんたに女見せてどうなるのよ！？」




目の前で
すごく嫌そうな目で私を睨みつけてくる



こいつにだけは絶対に素顔を見せたくない

絶対に、だ。




胸の奥の奥でドクンと脈打つ鼓動を抑え込む




なんでかはわかんないけど

きっと、私のプライドが許さないんだと思う。




バレーボールを両手で掴みながら





「次、マスク取ろうとしたら…、しめあげるから」




二口に忠告をかけておいた。






案の定、後ろの方で


「まじ男前っすねっ、ははっひ」




笑い声をあげだす男。


を、本当に殴りたくなった。


この怒りの衝動を抑えれた私を誰か褒めてください。

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