手のかかる後輩くん【二口堅治】

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水かまだ滴るボトルのはいったカゴを置きながら

拭こうとタオルを取りに歩き出すと






「あ、先輩っ！」



一人で体育館を独占していた彼が

私の姿を見つけるなり声を放つ



これは
たぶん。いやきっと練習に付き合ってくれ



という彼なりの合図


だと私は解釈している。





ちょっと待って

と、伝えながらタオルを水滴が体育館の床に落ちないようにボトルの下にひく。




そしてそのままバレーシューズの紐をきつく結び



整った顔を

はやくーとでも言いたげに口を尖らせて待つ後輩の元へと向かった。






「お待たせ、ごめんね」

「待ちくたびれました」



素直に謝罪の言葉を付け加えると
生意気な言葉を返してくる、二口



奴の言葉にちょっとだけいらっとしたので
私より30センチ近くも高い彼を見上げながら







「なら茂庭にあげてもらいなよ」




と、どうせいつもの憎まれ口で
言葉が返ってくると思いながら呟くと




「先輩がいいんっすよ」



いつもの彼らしからぬ柔らかい笑顔と

本当に二口なのかと思うような言葉が返ってきたことに耳と目を疑った。




ほんとにほんとーに
目の前に居る後輩はあのくそ生意気な後輩の二口なのだろうか



マスクで隠れているから
口がパクパクと開きっぱなしなのはばれないだろうけど


驚きのあまり




「ちょっ、先輩なに驚いてるんすかっ、ふはっ」



目が見開いていたことは隠せ通せず


大きく笑い声をあげだす後輩を睨みあげることしか出来なかった。





夕日が差し込む静かな体育館に

手のかかる後輩の笑い声だけが大きくこだました。

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