ブラックカバラ (ページ1)

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昔々、ある所に一人のお姫様がおりました。

それはそれは美しいお姫様で、お妃様と王様は大変お喜びになりました。

しかし、物心がつき始めた頃、不思議な事が起こったのです。

「お父様、明日は西の森で大きな火事が起きます」

王様は、お姫様の言葉を信じませんでした。

けれど、翌日。

西の森は赤々と燃える炎に包まれ、多くの人々や動物たちが住む場所を失いました。

「何故、火事が起きると分かったのだ」

王様がお姫様にそう聞きました。
お姫様は、恐る恐る答えました。

「昨日、お城を訪れた商人の亡くなる姿が見えたのです」

ポロポロと涙を流すお姫様に、王様と王妃様はその時、初めてお姫様の秘密に気がついたのです。

お姫様は、自分に関わった人々の未来を予知できたのでした。

お妃様は、お姫様を哀れに想い、そっと抱き寄せました。

王様は大変感心し、お姫様の言葉を信じなかった自分に後悔していました。

それからと言うもの、王様はお姫様の言葉によく耳を傾ける様になりました。

お姫様が大きくなると、未来を予知する力も大きくなっていきました。

お姫様の予知によって命を救われた人々は、涙を浮かべて感謝の意を示し、国中の誰もが次の王に望みました。

けれど、お姫様は王様に言います。

「この王朝は、お父様の代で終わります。私は次の王にはなれません」

それまでお姫様の言葉に耳を傾けていた王様やお妃様は、お姫様の言葉を信じられず、その理由を尋ねました。

お姫様は口を閉ざし、理由を一切口に出そうとはしません。

王様は、お姫様を城の中心にある塔に幽閉し、理由を明らかにするまで塔から出ることを禁じました。

すると、護衛にあたっていた兵士が王様に告げます。
塔に幽閉されたお姫様が、夜な夜な不思議な歌を歌うのです。

その歌はこの国の言葉ではなく、王様が知り得るどの国の言葉でもない異端のものでした。

けれど、不思議なことに誰もがその声に聞き惚れ、気味悪ことなく聞き入ってしまうのです。

やがて、ある一人の男が王様の元へ訪れました。
隣国の使者を名乗る男は、自分の王様からの手紙を渡しました。

手紙には、お姫様と隣国の王子との縁談を申し込むものでした。

けれど、王様はその縁談を丁重に断ることにしました。

今、お姫様をお嫁に出してしまうと、国民の支持が得られなくなると思ったからです。