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第壱百拾伍話 ページ15

土煙が消えた後、其処に立っていたのは中也だけだった。

しかし、力の矛先となる対象が無くなってもなお、その歩みは止まらない。
地割れを引き連れ、目に着くもの凡てに破壊を投げつけ乍ら荒神は嗤う。


「――――」


ふと、荒神の前に少女の形をした神が舞い降りる。

何の躊躇も思考も挟まず、振り翳されようとする赤黒い闇。



だが、



「敵は消滅した。もう休め、中也」


重力子の礫がAを襲うよりも先に、その腕は太宰によって制止された。

霧散した重力子が月光の中へと溶けていく。
身体中に浮き出ていた異能痕も薄れ消えてゆき、やがて霞んでいた瞳に蒼い輝きが戻って来た。

自我を取り戻した躰は生命維持の役目と共に、痛みを思い出させる。


「グッ……、ゲホッ、」


全身に走る極度の虚脱感と疲弊に中也は膝から崩れ落ちた。

せり上がる痛みに咳き込めば、口から吐いた血が地面へと染み込んでいく。


「この……糞太宰……。終わったら直ぐ……止めろっつうの……」
「もう少し早く止められたけど、面白くて見てた」


人が死にかけているというのにこの言い草。
消耗しきった身体でも殺意が湧き上がる。

やはり、この男を少しでも信用したのは間違いだったかもしれない。中也は割と本気で考えた。



……すると、細い手が頬に触れた。

ハッとして見上げれば、其処にAが浮かんでいる。

ふわり、と淡い光が中也を包み込んだ。
陽だまりのような柔らかいぬくもりに痛みと倦怠感がゆっくりと溶けようとする。

けれど、比例して血を流すAに中也は顔を青ざめさせた。


「ッ、止めろッ!!」


彼女の服は既に流れ出る血で赤く染まっている。

思わず頬に触れる細い手を掴んだ時、横合いから包帯を巻いた腕が伸びて彼女の額に触れた。


「君ももう休むんだ、Aちゃん。私達は大丈夫だから」


太宰の言葉と共に、その指先が触れていた額の紋様が消える。

揺蕩っていた光と風を引き連れ、歌は空気の中へと溶けていった。


力が途絶え、重力のままに落ちていく身体。


――――それを抱き留めたのは少し小柄な、けれど広く大きな腕だった。

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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 文スト , 中原中也   
作品ジャンル:恋愛
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雪白(プロフ) - 雪さん» コメントくださりありがとうございます。そのように仰って頂けて大変嬉しいです。ただ、現時点ではあまり続編を書く予定はありませんね…。ご期待に沿えず申し訳ございません。拙い作品ですが、最後まで読んでくださり本当にありがとうございました。 (7月5日 17時) (レス) id: a24e144b4a (このIDを非表示/違反報告)
- とっても素敵な話をありがとございます🌸話の流れからしてこれで完結のようですが、死の家の鼠編やそれ以降の話はやったりしないのですか? (7月3日 14時) (レス) @page34 id: 685216d62e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雪白 | 作成日時:2023年2月25日 9時

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