第52話 ページ3
「逃げないでよ。取って食うわけじゃないんだから」
笑いながらそう言うと、一星くんは警戒心むき出しの瞳で私を見つめる。
「円堂のことも、信用してないの？」
私は腰を曲げて一星くんの顔を覗き込むようにして見上げる。
「俺は誰のことも信用してません。裏切り者とわかっているのによく話しかけてきますよね」
「そうだねー…一星くんは裏切り者だし、ほんとなら鬼道の時も、皆に言っておけばよかった。一星くんにバレたら身の危険があるなら、一星くんにバレないように鬼道にだけ伝えておくことも出来たしね」
そう言いながら笑っていると、一星くんは私の胸ぐらを掴みあげた。
「そう分かっていたならどうして他の奴らに言わなかった！」
えー、なんでバラさなかったのに一星くん怒ってるの！？
そう思いながらも平静を装う。
「言って欲しかったの？」
そう聞くと一星くんは私から目を逸らして、少し手の力を緩める。
「……私が言わなかったのは、一星くんのことを信じたいって気持ちが残ってたからだと思う。自分でもよくわかってないんだけどね」
私は一星くんの手をゆっくりと振りほどきながら言う。
「一星くんと初めて話した時、演技だったとしても、本当に優しい人だなって思ったもの……一星くんが心の底から悪い人だって、思いきれないんだ。多分、一星くんのことが好きなんだと思う」
そう言うと一星くんは「え」と小さく呟く。
一星くんの顔を見ると、心なしか少し赤く見えた。
「……照れてる？」
「照れてません！」
「だよね！」
かわいい一面もある一星くんが面白くて、それを知れたことが嬉しくて、思わず笑ってしまう。
「まぁ、つまりそういう事だから……頼ってよ。ちょっとだけでいいから」
「俺は誰の助けもいりません」
そう言うと一星くんは私に背を向けてスポーツセンターに向かって歩き出した。
「一星くん………」
私の声も、夜の空に虚しく消えていった。
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神崎 奏(プロフ) - みかんさん» ありがとうございます！めちゃめちゃうれしいです！！ (2020年4月13日 17時) (
レス) id: 2b665a7700 (このIDを非表示/違反報告)
みかん - とっても面白いです♪ (2020年4月13日 14時) (レス) id: b227610430 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：神崎 奏 | 作成日時：2020年4月3日 18時
