慈愛 ページ15
出来るだけ揺らさないように先輩が気を使ってくれたからか、私は微睡みの合間を行ったり来たりしながら先輩の背中におぶられていた。
｢＿＿＿＿下ろすよ｣
身体が地面に付く感覚で私は微睡みを抜け出した。目の前に広がる先輩の瞳に反射した私と目が合って、視線を逸らす。先輩の手は私のおでこに伸びて、それから慌ただしく靴を脱いで部屋に入って行った。一分もしないうちにタオルと一杯の水を両手に持って戻ってきた先輩は、また私の前に跪く。
｢これ飲んで水分取って。気分は？立てれる？｣
ひんやり濡れたタオルで先輩は甲斐甲斐しく私の汗を拭いながら聞く。私はすぐに返事出来なくて、渡された水が喉を通ってやっと声を出した。
｢たてます。えと、気分も大丈夫です｣
｢………｣
立たなきゃって上げようとした腰は思うよりずっと重くて、私はすぐヘロヘロと座り込んでしまう。どうにか踏ん張ってみてもダメで、すぐ上から先輩のため息が聞こえた。こんな己の情けなさに目の奥が痛くなって、視界が勝手に滲む。
｢僕は遠慮しないでほしいんだけど……ほら、大丈夫だから。腕こっちに回して｣
目尻の涙を剣持先輩の指先が拭った。言われた通りに先輩の首に手を回せば普段の数倍顔が近くなって、でもすごく安心した。先輩は軽々と私を持ち上げて、横抱きのまま部屋の中に運ぶ。エアコンの冷たい空気が肌をくすぐったけど、それよりも先輩の体温の方が私に近かった。
｢ごめんちょっと触るよ｣
(おそらく)居間で私を下ろした先輩は、一言私に断りを入れて私の首筋に手を寄せた。一番上まで留めていたボタンが二つほど外され、リボンも彼の手が握っている。ボーッとその手つきを眺めながら、昔母に同じ事をしてもらったのを思い出した。
＿＿＿＿くぅ。
マヌケな腹の音が通り抜けて、そういえば昼食を食べ損ねていたのを思い出す。恥ずかしさでバッとお腹を押さえれば、剣持先輩はくすくす笑って立ち上がった。
｢簡単なものなら作れるからちょっと待ってて。雲桜は寝てな。今毛布持ってくるから｣
｢え、あ！｣
すぐ近くにあったはずの体温が離れそうになって、私は咄嗟にそれを引き止めてしまった。剣持先輩はつんのめって不思議そうに私を振り返る。私はそれの言い訳が何ひとつ思いつかなくてぐるぐると目を回しながら、それでも手を離せない。
｢………大丈夫。すぐ戻ってくるよ｣
ね。先輩は、そう言ってまた私の頭を撫でてくれた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1678人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぴた(プロフ) - ひなさん» 大好きだなんてありがとうございます！😭これからも読んで頂ければ嬉しいです！ (2023年4月23日 16時) (
レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - YURIKAさん» コメントありがとうございます！😭この曲は私的に凄く大好きな曲で、絶対書きたいと思って温めてたやつです！笑 (2023年4月23日 15時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - みかんみかんさん» ありがとうございます！！最新話は絶対こうしたいと思って執筆したのでそう言って貰えてとても嬉しいです！ (2023年4月23日 15時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - 選曲良すぎて飛びました。あり、ありがとうございます...😭😭大好きです..😢😢 (2023年4月23日 6時) (レス) @page49 id: 1ddf176c35 (このIDを非表示/違反報告)
YURIKA(プロフ) - 初コメ失礼します！ 最新話で出てきた曲名がどんな曲だったかイマイチピンと来なかったので調べて聞いてみたんですが、今までの話や二人の関係にピッタリすぎてぶっ飛びました…神選曲すぎます！！ (2023年4月22日 23時) (レス) @page49 id: 2ef72ec18a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぴた
| 作成日時：2023年2月1日 19時
