45話 ページ45
美しい、切れ長の瞳が私を射る。
「今まで、ありがとうございました」
「……うん」
その次の言葉を、少しの間言い渋る。
そして
「もう二度と、貴方の前に現れたりしませんから、だから………」
泣きそうな自分を必死でこらえる。
「だから……もう一度だけ、抱き締めて____」
言い終えるより早く、再び黒に染まる視界。
「………A」
「……っはい」
「A。……………A…………A」
何度も私の名前を呼んで、強く、私を抱き締める。
この感覚も
こうして貴方に名前を呼ばれることも
これが、最後。
雲雀様が、腕を緩める。
けれど、その腕を離そうとはしなかった。
………知ってます。
貴方が今、この腕を離さないわけも。
私の、せいですよね。
………大丈夫。
貴方が沢山の思い出をくれたから
貴方が私を救ってくれたから
私はもう、大丈夫です。
「雲雀様」
彼の身体がわずかに動く。
「雲雀様、ありがとうございました。離れても、大丈夫です」
声が震えないように。
せめて、最後くらいは堂々としていよう。
そして、離れていく貴方の身体。
ふと、雲雀様は我に返ったように自身の髪をかきあげて、呆然とした。
(僕は、何をしてるんだろう………)
雲雀様が、ぼんやりと私を見つめる。
(早くしないと…………)
普段の無表情に戻った雲雀様は冷たく言った。
「もう、僕の邪魔しないで」
「分かっていますよ」
笑う。
すると彼は、ようやく私に背を向けた。
「……これ以上、僕に近づかないで」
「もちろんです」
貴方のためなら、
何だってしますよ。
そして、歩き出す雲雀様。
「………じゃあね」
振り返らぬまま別れを告げる。
「………さようなら」
私が憧れた、その背中に言って見つめた。
やがて、彼の姿が完全に見えなくなる。
「……好きでした」
「貴方のことが、大好きでした」
「叶うなら、もう少し貴方の傍にいたかった」
でもそれも、叶わない。
どんなに辛くても、悲しくても
貴方が望むなら
私を救ってくれた雲雀様が望むなら。
流れる涙は雨と落ちる。
降り止まぬこの雨に溶けていくように
私も静かに歩き出した。
「さようなら、雲雀様」
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阪サッカー(プロフ) - こういう非恋の小説ってあまり読んだことがないからか、最後は本当に泣きそうになりました。ストーリーも凄く面白かったです。 (2020年5月28日 8時) (
レス) id: d96a890ddc (このIDを非表示/違反報告)
桜もち(プロフ) - いつの間にか10,000hit超えてました！皆様ありがとうございます！ (2017年6月2日 22時) (レス) id: 840f834652 (このIDを非表示/違反報告)
桜もち(プロフ) - 大変申し訳ありませんが以前作っていたこの作品の続編的な作品を諸事情により削除させていただきました。詳細はメイン作品のお知らせにてご確認下さい。本当に申し訳ありません (2017年5月8日 18時) (レス) id: 840f834652 (このIDを非表示/違反報告)
練爛々(プロフ) - 桜もちさん» わかりました！暇があれば読んでみます (2017年4月19日 6時) (レス) id: 4f09b777b3 (このIDを非表示/違反報告)
桜もち(プロフ) - 練爛々さん» ありがとうございます！続編的なものを書き始めましたのでどうぞお暇があればご覧下さい！ (2017年4月18日 23時) (レス) id: bdfc419512 (このIDを非表示/違反報告)
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