aversion 2 (ページ10)

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樹「もう動いて大丈夫？」
　「ん。すっかり。」
樹「ならよかった」

　花火が入ってた袋を見ていた視線を私に移して言う。さっきまでの具合の悪さはどこへ行ったのか。すっかり良くなったことを伝えれば落ち着いた声で返ってくる。いつもはもっとうるさいくせに。

　そのまますぐに花火のことを教えてくれた。どれがどんな色だ、とか。袋を見ながら私に教えてくれる。意外と説明書とか読むタイプ？それとも、私がいるから説明してくれてるだけだろうか。

　「これにしてみっかな」なんて言って花火を持った田中くん。それに続くように適当に花火をもって火をつける。田中くんの花火からバチバチッと火花が出る。

樹「さっきも言ったけど、俺別に花火が好きなわけでも楽しみだったわけないって」

　火花が出た花火をもって少し離れた田中くんが、それを見ながらまた落ち着いた声で言う。さっきの呟き、聞こえてたか。

樹「好きな子と一緒にやってるから楽しいの。見るのも、やるのも。どっちにしても。」

　また、バグだ。こんな落ち着いた、当たり前、みたいな言い方をされたらいつものように突っぱねることが出来ない。心臓がキュッとなるような感覚が残る。

樹「……まぁ、久々にやってるってのもあるけどな。花火なんて中々やんないっしょ？」

　私が返答に困ってるのを察したからなのか、付け加えるように話しながら「いぇーい」とか言って花火を回す。

　「それもそう、だね。久々にやった」
樹「だべ！？小さい頃は怒られたけど、今なら３本一気に持てちゃうし。ほら！」
　「キリよく４本やってみなよ。片手２本ずつ」
樹「余裕」

　消えた花火を水につけ、適当に持った４本を二人で協力しながら田中くんの両手に２本ずつ持たせる。話しているうちにさっきのバグは消えていた。だから、物理的に距離が近くなっているのにも花火に夢中で何も感じなかった。

　でも、それは私だけだったみたい。

樹「俺のこと嫌いなんじゃないの？」

　花火をうまく指で挟みながら聞く。何をいまさら当たり前なことを。

　「嫌いだよ。すごく」
樹「なら、今は、楽しい？」

　もう一本くらい持てるんじゃないかって田中くんの指に花火を挟もうとしたときに聞かれる。田中くんの手に向いていた視線を顔に移す。

　その顔が少し照れたように見えて、その瞬間にこの距離感の近さに気付いてこっちまで照れてきてしまい、少し体を後ろにそらした。