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「ってか、離してよ！」
少し引きずられて歩いたところで腕を思いっきり振って掴まれていたところを離す。抵抗もなく離れた田中くんの手。
樹「いやー、本当に一緒に回れるなんて」
「勝手に話し進めといて何を言ってんの」
樹「でも、手離れたのに逃げないってことは諦めたでしょ？」
その言葉に否定はできなかった。もうめんどくさいし少しだけ付き合ってやろうと思っていたから。
樹「だからいいでしょ？」
「…私の行きたいとこ付き合ってくれんなら」
樹「もちろん」
余裕を感じさせる笑みを浮かべながら言うのが腹立ったから置いていくように足を速める。そんなことしたところで歩幅の差もあるしすぐ追いつかれるのは分かってんだけどさ。
人混みの中、どこに付き合ってもらおうか考えながら廊下の窓から中庭を見る。中庭もすごい人、なんて思っていれば見覚えのあるクマが見える。そのクマから発されている聞き覚えのある声がここまで聞こえてくる。
「森本くん声でっかいな」
樹「どこいるかすぐ分かるな」
「あ、そういえば」
さっき森本くんからもらった伝言を田中くんに伝える。「田中くんが来る前に森本くんが来たよ」ってそれだけ。なのに「あー…まじかー」なんて小さく呟く田中くん。
樹「あいつ、Aちゃん関係で俺のこといじるの今お気に入りだから」
「…それは、どういう？」
樹「俺の方が樹より先に会いに行ったもんねー！って後から騒がれんだよ。で、俺が悔しがんの見るの好きなんだよ」
「悔しがる必要ないとこで悔しがるからじゃない？」
樹「俺だって出来るだけ早く行こうとしてたのに、って思っちゃうんだよ」
当たり前のことのように言うけど、悔しさもいじる意味も、私にはしばらく理解できそうにない。ちょっとだけ理解しようと考えたのをすぐやめて、また声のする中庭を見る。
「サッカー部って、もしかしてあそこ？」
中庭に見えた少し歪んだ、男子が描いたんだろうなって感じのサッカーボールの絵。それがサッカー部以外ならなんなんだ。と、思いながらも隣にいる田中くんに聞く。
樹「じゃなかったらなんだと思う？」
声を出して笑いながら言う。…私だってそう思ったけど、一応さ？確認みたいな意味じゃん。なんて悔しくなる。いいや、この人置いて勝手にあそこ行ってやろう。また足を速めようと視線を田中くんからそらした。
樹「行く？今なら高地いるはずだけど」
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作者名：天羽
| 作成日時：2022年5月12日 2時
