プロローグ2 ページ3
「はっ…はじめまして。
佐倉さくらです…よろしくお願いします…」
言えた……
私は、目を開けたらいつものように拍手が起こると、そう思っていた。
(あれ…？)
みんな顔を見合わせながら、コソコソと何か言い始めた。
そしてついに、クラスのリーダー格の男子が大きな声で
「本名ですかー？サクラサクラじゃん！！」
その瞬間、クラスにどっと笑いが広がった。
私以外の全員が楽しそうな表情でクスクス笑っていた。
俯きながら、眼鏡に零れた涙をそっと袖で拭った。
怖い、…誰か、助けて………
「静かに、みんな仲良くしてね。じゃあHR終わり。佐倉さんは来てね。」
先生がそう言うと、私に手招きした。
「どう？…ってまあ、来たばっかか！」
先生はケラケラと笑った。
「…あっあの…さっきの、」
「ああ！みんなに気に入ってもらって良かったね、サクラサクラって！」
じゃあこれで、と先生は教員室に行ってしまった。
「…うぅ」
「おーいサクラサクラ！！」
言い返すことさえできず、やっぱり俯くしかなかった。
(助けて…誰か……)
そんな事も口に出せない自分がすごく恥ずかしかった。
家に帰れば、父に蔑ろにされる生活が続いた。
そのうちにお母さんさえ冷たい態度をとるようになってしまった。
実質的に私は孤立してしまったのだ。
会うのが辛かった。
一緒にいるのも苦痛になった。
名前のことを言われるのもどんどんエスカレートして行った。
「お前マジで何も言い返さないんだな。
そんな自分の名前気に入ってんのかー？」
ギャハハ、と大きな笑い声が聞こえる。
「かーわいーー！！きゃははは」
(もう…何もかもやめて、………誰もいない場所に行きたい………助けて……)
「やりすぎでしょ……嫌がってるじゃん……」
ちょっと気だるそうに、そう言ってくれたのが
翠くんだった。
「…そっ、そんなつもりは………ご、ごめんな？佐倉……」
「…なんかごめん……」
かっこよくて、クラスのリーダー格のグループにいていつも女の子に囲まれている翠くん。
…私とは遠いところにいる存在だった。
なのに…その日から、気が付いたら目で追ってしまった。
叶わない恋なんて、忘れてしまった方がいい…
そんな事、自分がよく分かっているのに……
きっと彼は、私を助けた事も覚えていない。
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作者名：さやか | 作成日時：2018年7月19日 22時
