少女は月明かりの旋律を紡げるか 31 ページ31
歌い返しながら目を見張る。歌えている。あれだけ頑張っても今まで出なかった歌声が──
そのままキッドへ視線を向ければ、彼は目を細め小さく頷いて見せた。
いろんな感情がと共に涙も湧き上がる。自分のパートが終わるとその感情のままにぎゅっとキッドに泣きながら抱き着いた。それに僅かにキッドが私を抱く腕に力を込め、次のパートを歌い出す。
そのままお互いに歌い合い、夜景煌めく中空中遊泳を楽しむ。信じられない、歌えたことも勿論、こんなに素敵な経験があるだろうか。お互いの歌声はもちろん、吹く風も空気も、全てが煌めいて見えた。──歌い終わるのが勿体ない。
それでも曲には終わりがある。暫くして静かに歌い終わると私は僅かにキッドから身体を離し、湧き上がってきた色んな感情に頰を紅潮させながらキッドを見た。
「う、歌えてた、よね!?」
まだ僅かに信じられなかった。本当に歌えたのだろうか、思わずキッドに聞いてしまう。
「ええ、歌えてましたよ。最初に聞いた時と同じ、美しい歌声で」
「…っ、キッド、本当にありがとう……!」
またぽろぽろと涙が流れる。キッドはふっと笑って私を至近距離で見つめた。
「言ったでしょう?貴女の心の奥底に眠ってしまった魔法は私が取り戻す、と。貴女の泣き顔も美しいが……私が見たかったのはさっきのような悲しさで泣く貴女の泣き顔じゃなくて、嬉しさで泣く貴女の泣き顔でしたから」
「!み、見てたの……!?あ、でもそれはそうよね、私泣きながら寝てたみたいだし」
涙をぬぐいつつキッドの言葉に目を丸くするが、それはそうかと納得して苦笑しては再び眼下に広がる夜景に視線を移し、ぽつりとキッドに問いかけた。
「ねえキッド、でもどうしてこれが効果覿面だってわかってたの?」
キッドは最初からこれで歌えるようになると確信を得ていたようだった。どうしてなんだろう。
「単純に暗闇を輝く光で振り払っただけですよ。どうして最初にまだ歌いたいかどうか聞いたかわかりますか?」
キッドの言葉に緩く首を振った。それにキッドが続ける。
「私や貴女のようなエンターテイナーは、人を如何に喜ばせ、魅了するかを常に考えていて、そして同時に一つのものを突き詰める芸術家でもある」
「エンターテイナーで、芸術家……」
そこで一度言葉を切ると、再びキッドは続けた。
「芸術家は自分の心が突き動かされる程の感動に出会った時、何らかの形で自分もそれを表現したいと願ってやまないものなんですよ」
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さくら(プロフ) - 雪村セツカさん» 雪村さん初めまして!表現褒めて頂けて嬉しいです……!!のんびり更新していきますので、お時間ある時にまた覗いてやって下さいませ! (2019年5月29日 23時) (レス) id: 6161016a7e (このIDを非表示/違反報告)
雪村セツカ - 凄い表現の小説です!この後もとても楽しみです! (2019年5月29日 21時) (レス) id: d20236ed14 (このIDを非表示/違反報告)
さくら(プロフ) - 彩奈@Project KZさん» 彩奈さん初めまして!わあ、ありがとうございます……!お暇な時にゆるりとまた見て下さると嬉しいです☆ (2019年5月29日 7時) (レス) id: 671013a88c (このIDを非表示/違反報告)
彩奈@Project KZ(プロフ) - すごく面白かったです!引き込まれました!!今後の展開が楽しみです! (2019年5月29日 7時) (レス) id: 31fa4da9ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さくら | 作成日時:2019年5月24日 8時