少女は月明かりの旋律を紡げるか 第１部【怪盗キッド】

少女は月明かりの旋律を紡げるか 21 ページ21

「心の奥底……なんで歌えなくなったかまで把握済みってことなのね。本当に何処で知ったの？」
キッドの言葉に苦笑して問い返すが返答がないのはわかっている。あまり触れられたくない話題のために小さく溜息をついたが、真剣な表情でこちらを見るキッドを見返して緩く笑ってみせた。
「別に今に始まった事じゃないの。嫌味を言われるのはいつもの事で」
そう言って取られている手を離そうとしたが、しっかりとキッドに握られていて叶わなかった。
「いつもあれ程酷い言葉を投げかけられているわけではないでしょう？でなければ歌えなくなるまではいかない」
間髪入れずに返されてしまい思わず言葉に詰まる。取り繕うのはやはり無駄なようだ、諦めて溜息をついた。…そういえば今日黒羽くんにも同じ事を言われたなあ、とふと思い出しつつ。
「……確かに、今回のはちょっと傷付いたけど」
「ちょっとではないでしょう？」
「……大分傷付いたけど」
「ええ、それで？」
「お祖母様に嫌われているのは仕方がないから」
「……永月凛さんが亡くなった原因が幼かった貴女を庇ったからですか？」
「……流石。なんでもお見通しね」
母は有名人だった為に亡くなった時は大々的にテレビで報道された。そして事件自体もかなり悪質かつ凄惨なものだった為、テレビを見ている人で知らない人はいないだろう。母は通り魔に襲われた私を庇ったのだ。あの事件は母以外にも多数の死者が出ており、暫くの間世間の話題はこの事件で持ちきりだった。
「事件のショックで私は事件の前後の事はよく覚えてないの。気が付いた時には病院のベッドの上で……母が亡くなった事を聞いた。その時に祖母と何か話して、父と祖母が酷く言い争っていた事も僅かに覚えているけど、内容は思い出せない。けどそこから祖母は私に冷たくなった」.
「貴女も襲われている上目の前で凛さんを亡くしている。貴女が悪い訳がありませんよ」
「……うん、ありがとう」
真剣にこちらを見つめきっぱりと言い切るキッドに笑みを返して小さく溜息をつく。
「事件前後の記憶が欠けてたりなかったりするのを家族以外に話したのは初めて。人が隠している事を暴くのが得意なのは流石天下の大怪盗さんってところかしら」
まあ隠しても無駄そうだから自分から話したのだがとくすりと笑えば、ほんの少し気持ちが楽になったのを感じた。今まで祖母に何を言われても何も言えなかったのは私自身が母の死に罪悪感を感じていたからに他ならなかった。

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