少女は月明かりの旋律を紡げるか 第１部【怪盗キッド】

少女は月明かりの旋律を紡げるか 19 ページ19

「あの……何故こちらに……今日は予告状を出した日ではないですよね……？」
過去2回キッドに会った時はお目当ての宝石がある場所へ予告状を出していた日だった。なのでてっきり予告状を出していない日であれば会わないだろうと踏んで屋上にいたのだが、まさかだった。よりによって歌えなくなった日に来なくても、と心の中で呟きながら思わず敬語になり問いかける。キッドは木の上から軽やかに飛び降りては、落ちている衣装案の紙を拾い集めていく。
「ええ、今日は予告状は出していません。ただの散歩です」
「散歩」
爽やかな笑みでキッドが散歩だ、と言うのを鸚鵡返ししながらだから何故このタイミングなのだと内心頭を抱えた。
「そう、なら似たようなものよ、私も今日はお休みしてるの。代わりにコンクールの衣装選びをしてて」
「コンクールの衣装選び……成る程。それでこの紙の束ですか」
拾い上げた紙の束をぱらぱらと捲りながらこちらへ歩いてくると、それならと紙の束を私に渡すなりシルクハットを脱ぎ、鮮やかな手つきで大きな白い布を取り出した。一連の流れに目を丸くしていると、突然キッドはその布を華麗に広げ何を考えたのか私に被せたのだ。

「──────！？！？ちょ、何……！？」
「この衣装で如何ですか？」

視界が覆われ真っ暗になる。布を取ろうと暴れ始めたのも束の間、布はあっさりと取り除かれ、気が付けば私はドレス姿になっていた。
白をベースにしたロングドレス。ふわりとしたAラインのチュールスカート、前の部分は開いており下の光沢のあるライトブルーのスカートが僅かに見える。左の胸元には青い薔薇とピンクの薔薇、かすみ草をあしらいリボンで飾ってあるコサージュに、腰元は青いサテンリボンで飾られている。肩は出ているデザインだが、色合いのお陰か派手にならず清楚な印象だ。窓ガラスに写った自分の姿に最早私は驚きすぎて言葉を失っていたのだが、その後ろでキッドが満足気に笑っているのがガラスに写る。
「ドレス案の中から良いところだけをセレクトしました。お気に召しましたか？Aお嬢さん」
「……す、凄く、いいと思います」
何故名前を、と突っ込むべきだったのだが驚きすぎてそれも飛んでしまった。キッドの方をゆっくりと振り返り、とりあえずお礼からだと頭を下げる。
「あ、あの、ありがとう。衣装案多すぎて決まらなかったから……助かりました」
「いえ、お役に立てたなら幸いですよ」
そう言ってキッドは私に笑みを返した。

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