そうでなかったなら ページ8
「…」
「…って」
あ、あれ、なんか、私何言ってんだろ、と。俺が何も言えずに口を閉ざしていた数秒の沈黙の後に、Aはハッとしたような顔をして、それから瞬く間に慌てたような表情になっていった。顔の前に両手をかざしてこちらに手のひらを向けそれをぶんぶんと横に振りながら、その合間に見える彼女の口は笑みの形をしていて、その顔はほんのり赤くなっているように見えた。それは恐らくは、俺の勘違いでなければ夕日のせいだけではないのだろう。今となっては、なんだか自惚れているような気もしてきてしまうけれど、そうでなかったなら、俺は。
そんなことを考えていればAは視線を忙しなく泳がせて、両手を顔の前から少しだけずらして。けれどもうどうすればいいのか分からないというように指の間接を自然に折り曲げたまま腕を下ろすことも出来ずに手の位置は胸の前に止まっていた。やがて彼女の視線はするすると下がっていき、右斜め下の方を向いていった。
そしてまた訪れる沈黙。波の音だけが再びこの場を支配している。さっきも同じような状態だったはずなのに、その時とは沈黙の種類がまったく別のものになってしまっていた。波の音なんて最早耳に入らない。そわそわとして落ち着かない。俺も視線を海の方に逃がしてしまった。
するとAはこの何とも言えない沈黙に耐えかねたのか「あ!」と中途半端な声量でそう声を発した。ぐらぐらと揺らいでいて安定していない声だった。
「さ、魚とか居るかな〜、近付いてみたら見えないかな〜」
何を言ったらいいのか分からなかったのか何なのか、彼女はそう言うと波打ち際の方に足を進めようとする。けれどその足取りはなんだか辿々しく危なっかしい。その上砂浜は歩きづらい。転びそうだなと思いながらその姿を見ていれば。
「…ぅ、わわ…!」
「あぶねッ!!」
砂に上手いこと爪先を引っ掻けたのか、Aはぐらっとよろけて。俺は咄嗟に足を踏み出して前のめりになった彼女の腕を掴みこちらに引き寄せた。
Aの顔が俺の胸板にぶつかり、「ぶ」という声を小さく漏れ聞こえた。俺まで後ろに倒れてしまわないように踏ん張って、二人揃って倒れずに済んだ。
「大丈夫か…」
「…は、はい…」
咄嗟のことだったので、自分でやったのとなのに自分の置かれている状況を理解するのが遅れた。一瞬思考が停止し、瞬きをしながら俺は彼女を見下ろす。
俺は勢いのままに彼女の背中に手を回していて、小柄なAの身体が俺の腕の中にあった。
端から見たら、抱き締めているように見えるだろう。
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ピピコ(プロフ) - 獅子の子さん» しーちゃん!いつもありがとうぅぅぅ忙しい中来てくれてありがとうねぇぇえ返事遅くてごめんんん!!シリアスシーンは私もHPをすり減らしながら書いてるからね(笑)ちょっと更新お休みするけど戻ってきたらまた頑張るので、よろしくお願いします!!! (2019年8月6日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - ピー姉さん!続編おめでとうございます!リアルが忙しくてなかなかこっちに顔を出せなかったんだけど、久しぶりに来てみたら続編まで出てて...!嬉しいの極みです(≧∀≦) ピー姉が書くシリアスシーンの緊迫感が好きだぁ...無理せずに更新ファイトじゃ! (2019年7月14日 10時) (レス) id: af0bbdf801 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 追いつめられたときのキャラを書くときは自分でもダメージを負います(笑)二人の物語が今後どの方向に向かっていくのか、見守っていてくださると嬉しいですれ応援ありがとうございます!(*^^*) (2019年7月8日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - わわわっ……。もうー、これからどうなっていくのかドキドキですっ! 銀さんあんまり自分を責めないでっ。これからの展開がものすごく楽しみですっ! 応援してます! (2019年7月4日 18時) (レス) id: f38863f7c8 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 桜さん!ありがとうございます!!ですね!銀さんと言えば銀色です!夢主ちゃんは何色がいいかな…。私も優しい銀さんがめっちゃ好きですし繊細な夢主ちゃんと不器用ながらも接してくれるのがすごくツボです(笑)そう言って頂けるとやる気が出てきます!頑張ります! (2019年6月5日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2019年6月1日 22時