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何一つとして ページ32

『私、死ぬんですよ』


Aがたった今口にした言葉を、何回も何回も頭の中で反芻させる。脳内に響くようなそれは、まるで頭痛のように波打っていた。彼女の呼吸の音も、心電図の音も、病室の扉の向こうの外から聞こえてくる物音も、すべての音が世界から遠ざかって、世界に無音が訪れて、ただただ彼女の言葉だけが、俺の頭を埋め尽くしていった。けれど、何度その言葉を繰り返しても、理解に至れることはなかった。意味が分からなくて、俺はこの二十数年の人生の中で培ってきたものを全部丸ごと何処かに落としてきてしまったのではないかと思った。

なのに、その言葉を呑み込めないのに、俺はひたすらにこれが悪い夢であることを願った。目覚めたら見慣れた木製の天井が広がっていて、その日はAと出掛ける約束の日で、少し寝過ごしたと慌てて支度を進める。そんな呑気な一日が始まればいい。そう心から願った。

けれど、ドクドクと不吉な音を立てる左胸にあるその臓器の辺りから感じる鈍い痛みが、これを現実の出来事であると俺に教えてくる。無慈悲に、なんの遠慮もなく、逃げられやしないのだと告げている。


Aは目を閉じた。長い睫毛が彼女の目元に影を作る。


「……去年の秋頃に、主治医から宣告されていました。『来年の春まで持つか持たないか』だそうです」


まるでそれは自分のことではないのだという風に、彼女は言った。淡々としていて、そこには滲み出る感情は見当たらない。


「きっとここまで持っているのも奇跡的で、もういつどうなってもおかしくないんです。今日起きた発作もそう。起こったっておかしいことではなかったんです」


多分、私はこれから、死ぬまで、ここに居続けるんだと思います。Aはそう言い終えると、こちらにゆっくりと視線を向けた。俺を捉えたその目は、寂しそうで、けれどなんだか、何処か安堵を感じる目をしていて。長いこと背負っていた役目を、漸く終えたかのような目をしていて。

俺は言葉を失う。これが、本当のAの表情なのだということを悟ったから。


「だから銀さん、私はダメです」


自嘲しているように、もう解放してくれというように、笑う。


「私には、誰かとずっと一緒に居るとか、そういうのは無理なんです」


何もかもを否定するように、笑う。眉の形が歪む。


「だから、ごめんなさい」


あぁ、俺は本当に。


「……もう、ここには、来ないでください」


彼女のことを何一つとして知らなかったんだ。



彼女はもう一度、ごめんなさい、と呟いた。

今日も変わらず→←どうして



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ピピコ(プロフ) - 獅子の子さん» しーちゃん!いつもありがとうぅぅぅ忙しい中来てくれてありがとうねぇぇえ返事遅くてごめんんん!!シリアスシーンは私もHPをすり減らしながら書いてるからね(笑)ちょっと更新お休みするけど戻ってきたらまた頑張るので、よろしくお願いします!!! (2019年8月6日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - ピー姉さん!続編おめでとうございます!リアルが忙しくてなかなかこっちに顔を出せなかったんだけど、久しぶりに来てみたら続編まで出てて...!嬉しいの極みです(≧∀≦) ピー姉が書くシリアスシーンの緊迫感が好きだぁ...無理せずに更新ファイトじゃ! (2019年7月14日 10時) (レス) id: af0bbdf801 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 追いつめられたときのキャラを書くときは自分でもダメージを負います(笑)二人の物語が今後どの方向に向かっていくのか、見守っていてくださると嬉しいですれ応援ありがとうございます!(*^^*) (2019年7月8日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - わわわっ……。もうー、これからどうなっていくのかドキドキですっ! 銀さんあんまり自分を責めないでっ。これからの展開がものすごく楽しみですっ! 応援してます! (2019年7月4日 18時) (レス) id: f38863f7c8 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 桜さん!ありがとうございます!!ですね!銀さんと言えば銀色です!夢主ちゃんは何色がいいかな…。私も優しい銀さんがめっちゃ好きですし繊細な夢主ちゃんと不器用ながらも接してくれるのがすごくツボです(笑)そう言って頂けるとやる気が出てきます!頑張ります! (2019年6月5日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/  
作成日時:2019年6月1日 22時

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