【銀魂】君と共に生きる春 6【坂田銀時】

すべてが嘘だったかのような ページ40

一日中そんなことばかりを繰り返している。それしか考えられなくなってしまっている。自分自身がおかしくなっていることに自分でも気が付いていて、けれど、それを自覚したからといって、じゃあどうすればいいというのだろう。俺は一体どうすればいいのだろう。どうすれば良かったのだろう。考えたって分かるはずもなく、俺は二人に気付かれないようにまた溜め息をついた。テレビからまた笑い声が聞こえてくる。ここ数日、そういえばちゃんと笑ったことはあっただろうかとふと思って、そして次に、彼女は俺と居たあの時間の中で、本当に笑っていたことは、果たしてあったのだろうかと思った。

その当時は本当に楽しんでくれていて、心から笑ってくれているのだと感じられていたけれど、今は、その笑顔すら彼女が何か見えないものに必死に耐えながら浮かべていたもののように思えてしまって、今までの時間のすべてが嘘だったかのような気がしてきて、また俺は苦しくなった。呼吸が上手いこと出来ていないような気がした。


『……私、死ぬんですよ』

『来年の春まで持つか持たないか、だそうです』

「だから銀さん、私はダメです」

『……もう、ここには、来ないでください』

『ごめんなさい』


彼女が、Aが時折見せていた、あのもの悲しげな、切なそうな、苦しんでいるような表情を思い出した。一瞬で消えてしまって、『大丈夫』と言って彼女がひた隠していたその表情を。

優しげに、日溜まりのように笑っていた彼女はその裏で、あんな顔をしていたのだろうか。胸のうちに暗く重たい影を抱えて、それでも笑っていたのだろうか。なら俺はどうして、それに気付けなかったのだろう。もし気付けていたなら、暗い表情を見せた彼女に、大丈夫だと言って笑う彼女に、俺は何か出来ることがあったのだろうか。


いや、きっと、何も出来ることなどなかったのだろう。俺なんかに、何が出来るというのだろう。思い上がりも甚だしい。


俺は結局のところ、何も出来やしないのだ。今までも、何も出来ていなかったのだ。すべては俺の自己満足で、彼女のためになんか、なっていなかったのだろう。

そのすべてがきっと、彼女を苦しめてばかりいたのだろう。


Aは俺のことを、どう思っているのだろうか。どういう存在として、俺はAの中に居るのだろうか。

俺にはどうしたって分からないことだし、きっとこれからずっと、それを知る日は訪れやしないのだろう。

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