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またここに ページ23

「謝らなくていい。俺が無理させ過ぎちまったのかもしれねェ……ごめん」

「銀さんのせいじゃないです。それは絶対に、違います」


彼女は何処か、何かを繋ぎ止めるかのような必死さでそう言った。俺を見据えるその目は今まで見たことがないくらいに切実で、脆くて、けれど強い意思を感じた。その意思のままに揺らめいているようだった。その目を見て俺はまた、きっとこの彼女の表情も、これから先忘れることのないものになるのだろうとふと思った。Aは時折、そう思わせる顔を何の前触れもなくする。それはとても短い時間で、瞬く間に消え去ってしまうものだけれど、時間なんて関係なしにそれは俺の中に根付いては離れなくなる。忘れてはならないと、何処かで思うのだ。

カーテンが風に揺れているのを見たとき。一人きり布団に潜り込んだとき。朝に目を覚ましてあくびをしたときなんかに、何度でも思い出すのだろう。思い出す度に、俺はその時何を思うのだろう。そんなことを考えた。

兎に角、Aが目を覚ましたことに俺はホッとする。身体から力が抜けていって、立ち上がりかけてはいたものの結局再び椅子に腰を下ろした。背もたれがないので完全に全身の力を抜くことは出来ないけれど。


「……私、またここに戻ってきちゃったんですね」


と。Aは落とすように呟いた。その声には落胆だとか不満だとか、そういった感情は含まれていないようで、かといって当然嬉々としている訳でもない。酷く平坦に、Aにしては無色透明を連想させる静かな声だった。その事柄に対して、特に何とも思っていないような。こんなものかと、吐き捨てているような。

俺はその言葉に何を返したらいいのか分からなかった。彼女から発せられたその言葉は、声とは裏腹に、きっと彼女の中では重要で、重たいものなのだろうから。その代わりに、俺は言う。


「身体の方はどうだ、落ち着いてるか」


尋ねると、彼女はコクリと小さく頷いて「大丈夫みたいです」と返した。彼女が言葉を発する度に酸素マスクが曇る。

くぐもった声はいつものAの声よりも低く思えて、知らない声と話をしているみたいだった。


「あ……あの、銀さん、私の両親は来ていますか?」

「あァ、今は医者からの話を聞きに行ってるが、すぐに来るよ」


と、俺が教えると、Aは少しだけ間を開けてから「そうですか、ありがとうございます」と言った。

不自然な少しの沈黙の間に、彼女が何を考えたのか、いくら考えたって俺には分からないのだろう。

人生の一大イベント→←認識しきれていなかった



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ピピコ(プロフ) - 獅子の子さん» しーちゃん!いつもありがとうぅぅぅ忙しい中来てくれてありがとうねぇぇえ返事遅くてごめんんん!!シリアスシーンは私もHPをすり減らしながら書いてるからね(笑)ちょっと更新お休みするけど戻ってきたらまた頑張るので、よろしくお願いします!!! (2019年8月6日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - ピー姉さん!続編おめでとうございます!リアルが忙しくてなかなかこっちに顔を出せなかったんだけど、久しぶりに来てみたら続編まで出てて...!嬉しいの極みです(≧∀≦) ピー姉が書くシリアスシーンの緊迫感が好きだぁ...無理せずに更新ファイトじゃ! (2019年7月14日 10時) (レス) id: af0bbdf801 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 追いつめられたときのキャラを書くときは自分でもダメージを負います(笑)二人の物語が今後どの方向に向かっていくのか、見守っていてくださると嬉しいですれ応援ありがとうございます!(*^^*) (2019年7月8日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - わわわっ……。もうー、これからどうなっていくのかドキドキですっ! 銀さんあんまり自分を責めないでっ。これからの展開がものすごく楽しみですっ! 応援してます! (2019年7月4日 18時) (レス) id: f38863f7c8 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 桜さん!ありがとうございます!!ですね!銀さんと言えば銀色です!夢主ちゃんは何色がいいかな…。私も優しい銀さんがめっちゃ好きですし繊細な夢主ちゃんと不器用ながらも接してくれるのがすごくツボです(笑)そう言って頂けるとやる気が出てきます!頑張ります! (2019年6月5日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/  
作成日時:2019年6月1日 22時

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