【銀魂】君と共に生きる春 6【坂田銀時】

まるで分からない ページ14

＊


「…」


ひとつの扉の上にある『緊急治療室』と書かれた赤いランプが点灯している。その赤はパトカーに付いていたものと同じような色をしているはずなのに、まるで違うものに見えた。緊迫した雰囲気がそのランプから放たれているように思えた。その明かりを見つめていると行き場のないやるせなさと焦燥に襲われ、治療室前にある長椅子に腰掛けていた俺は視線を下に逸らし、自分の足元をじっと睨み付けていた。

病院に連絡を取った結果、病院からも救急車でこちらに向かい救急車に乗り換えて向かうことも検討されたが、事態は一刻を争うかもしれないということでパトカーで直行となった。Aをパトカーで病院まで運び、本来なら救急車で患者の受け入れをするはずの場所でAはストレッチャーに乗せられ院内に運び込まれた。その場で礼を言って山崎達とは別れ、俺は運ばれていくAに付いていった。

受け入れにやって来た医者や看護師が彼女の周りで名前を呼んだり状態を確認しそれを共有するための言語をそれぞれ口にしていて、知らない言葉がそこで飛び交っていた。俺にはそれの何一つも分からなかったけれど、良くない状況なのは空気で分かった。

『Aちゃん！分かる！？ここ病院よ！！』と酸素マスクを付けられたAに声をかけ続ける看護師の中には、以前から彼女の担当をしていた鶴見が居て、顔を強ばらせ必死に声をあげていた。


そうして緊急治療室にまで運ばれ、俺はここで待っているようにと鶴見に言われてここに居る。何が出来るわけでもなくここに居る。何も出来ない、けれどそのまま帰るなんてことも出来なくて、ただただAの無事をひたすらに祈っていた。

物音も聞こえないし中の様子も分からない。ここに来てから数分後、医者だと思われる人が小走りで治療室に入っていったけれど、それ以降は動きは把握のしようがなかった。


目を瞑る。すると早いリズムで動く心臓の音がドクドクと聞こえてきて、自分が相当焦っていることをまた自覚した。そして、それと同時にどうしようもないことを思った。どうして俺の心臓はこんなにもちゃんと動いているというのに、彼女のはそうではないのだろうと。

どうして彼女があんなに苦しみ、あんなに冷たくならなければならないのか。俺にはまるで分からない。そんなことがあっていいのかと強く思う。けれど、実際にそれはあって、今も彼女は苦しみ続けている。


それが悔しくて、悲しくて。怖くて堪らなかった。

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