単純 ページ35
銀時side
「…銀ちゃんだってバカじゃない」
俺の腕の中で、Aはそう言いながら、俺の背中に自身の腕を回した。俺よりもずっと小さいはずのその手は、まるで俺を包み込んでいるようで、あまりにも暖かくて、不覚にも目頭が熱くなる。
……怖かった。
俺は周りの奴等が思ってるよりもずっと、俺自身が思ってるよりもずっと、弱くて臆病だ。
過去のことは振り返らない。もう振りきったつもりでいた。もう10年も時間が経ったんだ。忘れないとはいえ、過去はいつかきっと記憶から薄れていくものなのだと。だが、どうやらそんな甘いものでもないらしく。
心の何処かにしつこくも付きまとう恐怖は、俺の中に深く根を張り、こびりついて離れなくなっちまっていた。
だから、だからかもしれない。
Aに俺のことを聞かれた時に、酷く戸惑い、怯えちまったのは。
……拒絶されるのが怖いなんて、なんて情けないんだ俺は。いつまでたっても変われねぇままなんじゃねぇかと、そんなことを今日ずっと考えていた。
なのに、
『…私は、銀ちゃんが昔何やってようと、どんなことをしていようと、銀ちゃんのことを嫌いになんてならないよ』
どうしようもねぇ、とか、情けねぇとか、そんなことを一気に溶かしてしまうような、Aの言葉。
『嫌いになんてならない』
それは酷く単純で、幼稚な言葉かもしれない。それなのに、どうしたってこんなに俺を救う言葉になりうるのか。……どうしてこんなにも、安心してしまうのか。
気づいたら俺は無意識のうちにAを抱き締めていた。そのぬくもりを腕の中に入れた瞬間、俺は酷く満たされたような、幸せなような、そんな気持ちを抱いていた。
……血生臭い戦場。冷たすぎる風。
そんな壮絶な記憶すら優しく包み込んでしまうようなぬくもりに、悔しくも俺は泣きたくなっちまって。
ー銀ちゃんだってバカじゃないー
あぁ。俺は本当にバカだ。
単純な言葉ですぐに安心してしまうほど、俺はバカでどうしようもねぇ。
でも、そんな俺でいいと言ってくれるのなら。
……俺はこれからも今を、アイツらと、Aと共に歩いていこう。
……そう強く強く、俺は思えたのだ。
銀「……あんがとな、A」
……俺のことを救ってくれて。
『救えるものがあるなら、私だって手を伸ばすよ』
お前の手は、確かに、俺の心を救ってくれたよ。
「……どういたしまして」
ーーそういやほっぺスゲー痛いんだけど。
ーーさっきの仕返しだバーカ。
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ピピコ(プロフ) - 悠さん!『忘れねぇよ』に続きこちらでもコメントありがとうございます!この作品はギャグもシリアスもお楽しみ頂けるものにしているつもりなので、そう言って頂けると嬉しいです!長ったらしく続いておりますが、引き続きお楽しみ頂けたら幸いです! (2017年8月9日 18時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
悠 - とても面白かったです!特にギャグの部分が好きです。トリップの話は今回初めて読みましたが、感動しました!これからも、頑張ってください!応援しています!ピピコ様の書く小説大好きです! (2017年8月9日 16時) (レス) id: 7d25b2e8fd (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - オロナミンCさん» そんなに誉めて頂けるとは…!!感激です!ギャグとシリアス、どちらも楽しんで頂けているなら幸いです!!これからも笑いあり涙ありを目指して頑張らせて頂きますので、少しでも楽しんで貰えたら嬉しいです!ありがとうございました!! (2017年7月29日 18時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
オロナミンC - ギャグもシリアスもちょうどいいぐらいにあってとても読みやすく面白く感動します。楽しく読ませていただきました。 (2017年7月29日 17時) (レス) id: e86c711444 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ - いちごみるくさん» 本当ですか!?そう言って頂けて嬉しい限りです!これから少しずつ物語が動いてくるので感動できるものを書けるように頑張ります!ありがとうございます!! (2017年5月3日 15時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2017年4月19日 11時