何もかも ページ28
『銀ちゃんは昔、万事屋を始める前は何をしていたのか』。それを不意に聞いた瞬間、銀ちゃんは私に見せたことのない表情を見せた。一瞬だけだったけど、何かを思い出したかのような、苦しそうな、そんな感じで顔を歪めたように見えた。
それを見逃さなかった私は、すぐに気づく。……何か良からぬことを言ってしまったのだと。踏み込んではいけない所に足を踏み入れようとしてしまっていることに。
「…あ、ご、…ごめん…」
銀「……何でお前が謝んだよ」
私は慌てて銀ちゃんに謝る。何に対して謝っているのかはよくわからないけど、いけないことをしてしまったと、漠然と感じて、罪悪感を抱いたからかもしれない。それに銀ちゃんはいつものように、おちゃらけてヘラリと笑って見せた。
「な、なんか……聞いちゃ、まずいことだったかなと、思って……」
心臓が、さっきとは明らかに違った意味でバクバクと鳴る。下手なことは喋らない方がいいと思っているのに、口が勝手に動く。まるで、言い訳を探しているかのように。
……それに、なんだか、今の銀ちゃんの顔は、いつも通りなのにどうしてだろう。何処か別人に見えたのだ。多分それは、
……何も聞くな。何も言うなと、雰囲気だけで私に訴えているような。線を引かれているような、距離を置かれているような。そんな感覚だった。
銀「…あー……まぁ、な。取り敢えず言えることは俺のこと聞いたってお前にゃ何にもならないってこった」
窓の外を眺めながら、笑っている銀ちゃん。そして、「それに、」と、何か続きを紡ごうとしているようで。
銀「……俺は、Aの思ってるような人間じゃァねぇ」
「っ!」
ズキッ、と、私の中の何かが、鋭く、鈍く、痛んだ。訳も分からず泣きたくなった。
……なんであんな、無神経なこと言っちゃったんだろ、と、手遅れな後悔をして、数秒前の私を憎んだ。
多分私は、銀ちゃんの中に確かに存在していた何かを、傷痕を抉ったに違いない。
「……ご、めん…」
私はただ、小さく消え入りそうな、情けない声でそう呟くことしか、できやしなかった。
……私はやっぱり、銀ちゃんのことを、何も、何もかも、知らないんだ。
……なんであんな苦しそうな顔をしたのか、なんで苦しいのに我慢して笑うのか、そして、なんて声をかけたらいいのか、全部全部、わからなかった。
銀「……そろそろ出ようぜ」
「……うん」
いつも通りに銀ちゃんはそう言うと、私の顔色を窺うようにして、薄く、笑った。
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ピピコ(プロフ) - 悠さん!『忘れねぇよ』に続きこちらでもコメントありがとうございます!この作品はギャグもシリアスもお楽しみ頂けるものにしているつもりなので、そう言って頂けると嬉しいです!長ったらしく続いておりますが、引き続きお楽しみ頂けたら幸いです! (2017年8月9日 18時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
悠 - とても面白かったです!特にギャグの部分が好きです。トリップの話は今回初めて読みましたが、感動しました!これからも、頑張ってください!応援しています!ピピコ様の書く小説大好きです! (2017年8月9日 16時) (レス) id: 7d25b2e8fd (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - オロナミンCさん» そんなに誉めて頂けるとは…!!感激です!ギャグとシリアス、どちらも楽しんで頂けているなら幸いです!!これからも笑いあり涙ありを目指して頑張らせて頂きますので、少しでも楽しんで貰えたら嬉しいです!ありがとうございました!! (2017年7月29日 18時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
オロナミンC - ギャグもシリアスもちょうどいいぐらいにあってとても読みやすく面白く感動します。楽しく読ませていただきました。 (2017年7月29日 17時) (レス) id: e86c711444 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ - いちごみるくさん» 本当ですか!?そう言って頂けて嬉しい限りです!これから少しずつ物語が動いてくるので感動できるものを書けるように頑張ります!ありがとうございます!! (2017年5月3日 15時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2017年4月19日 11時