鍵 ページ10
「遠くに飛んでいけたらなって、思ったんです」
と、彼女は言った。紙飛行機を棚の中に入れて、まるで厳重に鍵をかけるみたいに慎重に、ゆっくりとその扉を閉じながら。その言葉が、彼女にとってどれほど切実なものだったのか、今の俺には、まだ彼女が春樹Aであるということくらいしか知らない俺には、何もわからなかった。当然だ。ただでさえ人の感情なんてものは他人が測れるものではないのだから、初対面の彼女のことなんて理解できるはずがない。
けれど、彼女のそんな言葉は、誰よりも何よりも誠実で、真剣なものに聞こえたのだ。例えば誰かが、紙飛行機みたいに自由に空を飛んで、何処か遠くに行きたいと口にしたところで、こんな切実な響きを持つことはないだろう。そしてそう口にした大半が、それを不可能なことであると知っていて、本気でそんなことは思っていない。当然、人間は空を飛んでる飛ぶことなんて出来ないのだから。それを全員が知っているのだから。
そんなのは、虹の橋のふもとを探しに行くような夢物語だ。
そんな夢のようなことは、あるはずがないと。そう理解している。あるいは諦めている。けれど。
「遠い場所で、知らない世界に触れて、自由に飛んでいたいなって」
…彼女はどうしようもなく、それを望んでいるのだ。不可能だと理解していながら、諦めてしまいながら、それでもその望みを捨てられない。それは彼女の中の、確かな願いなのだ。
まるで、幼い子供が自身の夢を語るように、彼女はそう口にして、そうして俺を見据えては笑って見せた。
「…なんちゃって」
…案外、ガキみたいに笑うんだなと思った。その笑顔は、神楽のものに少しだけ似ているような気がした。きっと神楽よりも新八よりも年上なはずなのに、今は一瞬、幼い子供のように見えた。
「…ここに入院して、長いのか」
と。俺は不意にそんなことを口にしていた。明らかに、初対面の、しかも紙飛行機を届けに来ただけの奴が聞いていいようなことではなかった。あまりにも軽率すぎたかと焦ったが、彼女は「はい」と、呆気なく簡単に頷いて。
「まぁ、入退院を繰り返してはいるんですけどね」
少し前にまた入院になっちゃって、と。彼女は苦笑いを小さく浮かべた。病室には、ベッドテーブルに先程紙飛行機をしまった棚があって、サイドテーブルには、造花の桜の、小さな置物があった。
「…昔から身体が弱いんですよ」
ベッドテーブルの上には何冊かの文庫本と、鉛筆に消しゴム、大学ノートが一冊あった。紙飛行機はそれで作られたものなのだろう。
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ピピコ(プロフ) - 香織さん» 香織さん！ありがとうございます！！アニメ化…！！そんなに言って頂けるなんてめちゃくちゃ嬉しいです…！！現在最終章滑走中ですので最後までお楽しみ頂けたらなと思います！！これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします！！ (2020年2月19日 15時) (
レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
香織(プロフ) - おもしろかったです！なんならアニメ化してほしいくらい感動しました！投稿頑張ってください！ (2020年2月19日 13時) (レス) id: feeb4f844f (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 麗華さん» お返事遅れてすみません…！！銀さんがたまにドギマギするのが個人的に好きなので(笑) 夢主ちゃんはそうですね、ふんわりとしたイメージの優しげなイメージです^^ (2018年3月27日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
麗華(プロフ) - こちらも面白いです！銀ちゃんの反応、たしかに面白いですよね！夢主ちゃんがとっても優しい！スゴいですよ！この世界にこんないい人いるかなって考えちゃいました！ (2018年3月24日 9時) (レス) id: b003dc750d (このIDを非表示/違反報告)
aina♪(プロフ) - こちらこそお願いします！(o^―^o)ﾆｺ (2018年3月21日 23時) (レス) id: 1890f311d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ピピコ
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時：2018年2月16日 19時
