苦しんでほしくない ページ40
「そっか。元気になってくれて何よりだよ」
と、俺は心から思ったことを呟いた。今こうして顔を合わせていても、Aの顔色はまったく悪くないし、話していても声に張りがある。無理をして振る舞っている感じはしないし、病状はとても良く安定しているのだろう。聞くぶんには俺がここに来ていない間にも発作は起きていないようだし、彼女がいつかのように苦しむことがこの期間になかったのだということに、俺は静かに安堵した。
たまに俺はAが発作を起こしたときのことをふと思い出すときがあるし、病室に訪れるときも、扉をノックするよりも一瞬前にAがその扉の奥でどうしているのか。一人で苦しんでしまっていないかと焦燥を感じることもよくある。だからノックをしてAのいつもの柔らかな声が聞こえてこなかったりすると、一気に不安が押し寄せてくるのだ。先程の俺の心境もそんな感じだった。小児科に遊びに行っているだけと聞いて、顔には出さないように努力したが、実は大きく息を吐き出してしまいたくなるほどに、安心していた。
Aが発作を起こしたとき、彼女の顔は真っ青で、呼吸が苦しそうで、指先の色が失われてしまっていて、そのまま彼女は雪のように白く変色してしまって、消えていってしまうのではないかというような。そんな恐怖にも似たようなものを抱いていた。冷たい何かの輪郭に触れたような。その時は必死すぎて気付かなかったけれど。今だから、言えることだけれど。
『大丈夫です』
『すぐに良くなりますから』
『大丈夫』
そう、焦るばかりで何も出来なかった俺に、彼女は繰り返しそう、声を途切れさせながらに言ってくれたのを覚えている。弱々しくて、けれど懸命なその声を。彼女が頑張って向けてくれた笑顔を、覚えている。
もうあんな風に、苦しんでほしくないと、強く強くそう思う。
「……元気で居てくんなきゃ困るからな、神楽も新八も、俺もさ」
あのばか騒ぎにゃついてけねーだろ、と。俺は言う。Aは数回瞬きをしてから、ふわりと笑って「そうですね、元気でいなくっちゃ」と返してくれた。
「それでね銀さん、私もう一個言いたいことがあったんです」
「ん?何?」
俺はAが俺に伝えたがっている言葉に耳を傾ける。
「私、このまま病状が安定したままだったら、一時的かもだけど退院できそうだって!」
「……マジでか!!」
ここが病院であることを忘れかけて、思わず大きめの声を出してしまった。
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ピピコ(プロフ) - 桜さん» 桜さん!ありがとうございます!!ここまで中々お話が進まなくてすみません!焦っている中そんな風に言って頂けてとても嬉しいです!これからキュンキュンを大量投下できるように頑張ります!!今後ともお楽しみ頂けたら幸いです!! (2018年11月24日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
桜 - すごい面白いです。てか、キュンキュンします。最高です。更新頑張ってください! (2018年11月24日 21時) (レス) id: fcb91909ae (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 獅子の子さん» しーちゃんいつもありがとう!沖田隊長、シリーズでもコメントありがとう!いつも励まされてます!ちょっとでも誰かの心に響くものがあればいいなぁと思いながら書いてるから、そうなら嬉しいな!しーちゃんも色々忙しいと思うけど、しーちゃんのペースで頑張ってね! (2018年10月6日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - 君春続編おめんとさんです! ピー姉の小説は一文一文が丁寧で本当に尊敬しとります! ピー姉のペースで更新頑張ってね! (2018年10月2日 20時) (レス) id: 09ad90d8c3 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 続編に参りました!!少しずつになるとは思いますが精一杯お話を進めていくつもりですので、お楽しみ頂けたらなと思います!!頑張らせて頂きますのでよろしくお願いします!! (2018年10月1日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年10月1日 19時