歩幅 ページ29
病室から出てきてから、少しの間はお互いに特に何も言葉を交わすことなく歩いていた。その沈黙に何か理由があるわけではないのだろうけれど、なんとなく落ち着かなくて隣を歩いているAの顔をチラリと横目に見据えてみる。Aはリノリウムの床をじっと見つめているだけで、それはなんだか考え事をしているような様子だった。だから、用も別にないのに話し掛けるのは躊躇われて、俺は口を閉ざしたままだった。小児科から離れていって、エレベーターの方へと向かっていく。小児科は三階だった。Aの病室は四階にあるので上の階に向かう必要がある。
一階程度なら階段でも余裕なようにも思えるかもしれないが、Aの病気のことを考えるとエレベーターを利用した方がいいだろう。因みに鶴見に連れてこられるときは階段を利用していた。上に行くためのボタンを押すと、エレベーターの扉はすぐに開いた。他に使っている人が居なかったのだろう。それに乗り込んで、四階のボタンを押した。扉が閉まる。
そういえば、何気に普通に歩いては来たもののAがこうして病室の外を歩いているのを見るのは初めてだった。病室内ではちょっとの移動しか必要なかったし、Aが病室の外に居るのを見ることすら今までなかったのだから当然だ。Aは以前発作を起こしてから、病室での安静を医師から指示されていた。
こうやって隣を歩けていることが、不思議で、けれど、素直に嬉しかった。彼女の歩幅に合わせて歩くことが出来る。それが、うまく言えないけれど、とても心地よかった。
「そういえば、よく私があそこに居るってわかりましたね」
と、上昇するエレベーターが四階に到着して扉を開けた頃に、Aは口を開いた。
「あ、そっか、鶴見さんに聞いたのか」
「あァ、病室に行こうとしたら声掛けてくれてよ」
「お散歩に行くときとかは、必ず鶴見さんに言ってからって約束してるから」
ごめんなさい、わざわざ小児科まで来させてしまって、と。Aは言う。「謝ることじゃねーよ」と返しながら、そうか、と納得する。Aが病室を出て何処かに行っているときに万が一発作を起こしたり何か症状が出てしまったとしたら危険だから、鶴見に出掛けるときは言うように報告されているのかもしれない。抜かりないなと思った。
ナースステーションがある角を曲がって、病室へと繋がる通路を歩いていく。すると、「あと、さっきも、ごめんなさい」とAは呟く。
162人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 桜さん!ありがとうございます!!ここまで中々お話が進まなくてすみません!焦っている中そんな風に言って頂けてとても嬉しいです!これからキュンキュンを大量投下できるように頑張ります!!今後ともお楽しみ頂けたら幸いです!! (2018年11月24日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
桜 - すごい面白いです。てか、キュンキュンします。最高です。更新頑張ってください! (2018年11月24日 21時) (レス) id: fcb91909ae (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 獅子の子さん» しーちゃんいつもありがとう!沖田隊長、シリーズでもコメントありがとう!いつも励まされてます!ちょっとでも誰かの心に響くものがあればいいなぁと思いながら書いてるから、そうなら嬉しいな!しーちゃんも色々忙しいと思うけど、しーちゃんのペースで頑張ってね! (2018年10月6日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - 君春続編おめんとさんです! ピー姉の小説は一文一文が丁寧で本当に尊敬しとります! ピー姉のペースで更新頑張ってね! (2018年10月2日 20時) (レス) id: 09ad90d8c3 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 続編に参りました!!少しずつになるとは思いますが精一杯お話を進めていくつもりですので、お楽しみ頂けたらなと思います!!頑張らせて頂きますのでよろしくお願いします!! (2018年10月1日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年10月1日 19時