着信 ページ35
「…綺麗」
ぽつりと零して、Aは嬉しそうに笑った。つばさの服を掴む手の力を緩めて、瞼を掻くフリをして涙を拭った。
「綺麗だね」
見上げたAをつばさは優しく見つめていた。口元は弧を描き、目尻は下がっている。その瞳がAへの愛を物語る。居た堪れない心地になって、視線を空に戻した。
「私じゃなくて、空を見なよ」
「Aちゃんの喜ぶ姿が見たくて」
「意味分かんない」
伸ばした髪を左手でいじるAの右手を握る。
茜色は空に吸い込まれ、残ったのは夜の帳だった。波が打ち寄せるたびに体がびくついた。
海は怖いだけではないと分かっても、やはり怖い。
「帰ろうか」
頷いて、Aはつばさに手を引かれて車の中に乗り込んだ。
「あ、そういえば今日はどこに泊まるの？」
「お姉ちゃんのアパート！」
つばさは時間を確認した。時刻は19時を回っていて、今から帰ると21時過ぎになるだろう。
「21時過ぎるけど大丈夫？」
「うん。大丈夫だよ。ありがとう」
「…それとも、うち来る？」
いたずらっ子のように笑ってつばさが言う。
「い、行くわけないでしょ！」
運転席に座るつばさをキッと睨みつける。笑いながら車を発進させるつばさから目を逸らして、窓の外を見る。
途端に鳴り響く着信音。肩をびくつかせて取り出したスマホには姉の名前。ちらりとつばさを見上げた。
「いいよ」
言葉を紡ぐ前にそう言われて、Aは礼を言って電話に出た。
「もしもし」
『あ、もしもしA？ごめんね、今日忙しくて帰れそうにないのよ』
「そうなの？」
『うん。A、今どこにいる？』
「えっと…ここはどこ？」
「神奈川県だよ」
問いかけると、そう返してくれるつばさの言葉をそのまま綾乃に伝えた。
『誰かと一緒？』
「崎山さん」
『あら、そう！なら崎山さんの家に一晩泊めてもらったら？』
嬉々とした声にAはいやいや、と手を顔の前で振る。もちろん、そんな仕草は綾乃には見えていない。
「ダメでしょ、普通に」
『どうして？崎山さんが都合悪いなら私の部屋でいいけど、Aの性格上落ち着かないでしょう？』
「……それはまあ、そうだけど」
『ねえ、スピーカーにして。ちゃんと私からお願いしなくちゃ』
「いやいいよ。スピーカーになんて迷惑だし、崎山さん運転中だもん」
「俺はいいよ」
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星ノ宮昴(プロフ) - westさん» ありがとうございます！そう言っていただけると励みになります！ノリで書いているので、更新はかなり不定期ですが、よろしくお願いします (2021年3月7日 23時) (
レス) id: 0939823488 (このIDを非表示/違反報告)
west - コメント失礼します！読んでてすごい面白くて、あっという間に読んでしまいました！これからも陰ながら応援させていただきます！ (2021年3月7日 22時) (レス) id: 4daf55a770 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年2月3日 1時
