作家と舞台俳優Ⅱ (ページ37)

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少しばかりのページ37

お腹を押さえて、2人は顔を見合わせる。そして、同時に笑い声を上げた。

「ご飯にしましょうか」

「うん」

2人、立ち上がるとキッチンへと向かった。

時は少しだけ遡る。
舞台『ワケあって火星に住みました～エラバレシ4ニン～』が昼公演しかない本日。つばさは無事その日の舞台をやり切り、家へと帰っていた。
翌日から5日間の休演日を経て30日は2公演、31日は千秋楽のみの公演がある。

板を降りれば、ただの『崎山つばさ』になる。
街に紛れるように歩いていると、誰でもないただの通行人Aになったようで少し楽しくもあり、寂しくもある。

知名度もまだまだ発展途上だし、俳優としての夢もたくさんある。大勢の俳優の中から選んでくれたことに感謝をしながらファンと関わっているが、時々不安になることもある。

帰宅すると、スマホが光っていることに気がついた。送り主は最近出会って、つばさが恋焦がれる女の子。

開くと友人、植田圭輔の写真。白髪で、左目を紙で隠している。
彼が出ていた『A3』という作品の衣装を着ている。いきなり送られてきた写真の意味を図りかねて、つばさはしばし逡巡した。

圭輔の写真は誤送信だという旨のメッセージがすぐに入る。数時間後の訂正。気付かずに、ちゃんと送りたい人に送ったのだと思い込んでいたのだろう。

間違えたことに気付いて慌てている姿を想像すると、なんとも言えぬほど可愛らしいのだろうと思う。が、友人とはいえ、誤送信だとはいえ他の男の写真が送られてきたことに少しばかりの嫉妬心が芽生える。

一体これを誰に送ろうとしていたのか。

それを聞けるような仲ではないのが悔しかった。今はまだ恋人にはなれなくても、いずれはと夢見てしまうのは致し方ない。恋とはそういうものなのだから。

明後日に迫るデート。否、デートだと思っているのはつばさだけかもしれないが、楽しみで仕方ない。

土下座する兎のスタンプが送られてきて、つばさはそれだけで終わらせたくなかった。

『明後日のことだけど、待ち合わせ場所どこがいい？最寄りは中目黒だっけ？』

トーク画面を開いたまま、つばさはスマホを抱きしめた。

好きな人とのメッセージのやりとりは楽しくて、笑顔が溢れる。
彼女1人の言動、仕草、表情ひとつひとつに一喜一憂する。

それから、Aの返信がきたのは約1時間後のことだった。