混乱 ページ4
帰りに担当医に呼び止められ、聞いたのはやはり母のこと。本人の意向でAたち兄弟には知らされていなかったけれど、父には都度電話で状態報告をしていたらしい。
心臓を患って長い和歌はこの6年間持ち堪えられたことが奇跡だという。
もって、一週間。もしかしたら、もっと早く逝ってしまうかもしれない。
和歌は、家に帰りたいと言った。もう長くないと知っていたから、最期にあの家に戻りたいと思ったのだろう。
和歌の心を想像せずにはいられなかった。虚しさだけが体の中を支配していく。
もう、どんなに切望しても叶わない夢なのだろうか。
Aがもう一度、母と共に家で生活するのは。
神様はいつだって残酷だった。覆らない現実が牙を剥いてAの心を苦しめた。
「おかえり」
なんとか帰り着いたAを迎えたのは玄関に寄りかかっていた男の姿だった。その姿を見た途端、張っていた糸が緩むように、その場に膝から崩れ落ちた。
普段は言い合ってばかりなのに。やはり、気心の知れた幼馴染みだからだろうか。弱った心を曝け出しても、積み重なる日々の中で固く結ばれた信頼関係のおかげなのか、彼にはすぐに頼ってしまう。
「どうした？」
高飛車な態度はどこへやら。駆け寄ってしゃがむと、Aの背中を優しくさすって彼は問いかけた。
「……楓、どう…っ！…どうしよう。どうすればいい？」
なんの説明もせず、ただただ混乱して彼の胸元を掴んだ。目元を濡らす雫がAの心を暗く沈めていく。
「何があった？」
静かな問い。Aは涙を拭うと、震える声で病院で聞いた話を楓に聞かせた。
「A、まず一さんと綾乃さん、大志に連絡しろ。今の状態をちゃんと話せ」
泣きながらも、なんとか頷いた。それでも心に巣食う不安も恐怖も消えはしないのだけど、少しだけ落ち着いた。
「ありがと」
ぽつり、と掠れた声で呟くように言った。
「おう」
涙を拭って、Aは楓の服から手を離した。
「取り乱してごめん」
「いや、新鮮で面白かった」
にやり、と意地悪な笑みを浮かべる楓を一発叩いて、僅かに口角を上げた。
こういう時こそ家族と、兄弟と話をしなければならない。癪だが、楓の言っていることは正しいのだ。
家の中に入ると、Aは早速それぞれに電話をかけ始めた。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2020年6月14日 15時
