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雪が降ってから数日が経った。
それは定時であがり探偵社から家に帰る途中のことだった。
夕暮れの空をぼんやりと見上げながら歩いていると、ふいに自分の外套の裾を軽く引っ張られた。
そしてその言葉を云われるには、随分唐突なことで。
「……っと。君は、この前の……」
『……太宰さん。私に、異能力の扱い方を、教えてくれませんか』
つい先日路地裏で助けた、氷の異能力を持つ少女だった。
裾を握ったまま、震える声で、私の瞳を真っ直ぐに見詰めた。
けれどその瞳は何処か今にも泣き出しそうで、縋り付いているようにも見えた。
指先も肩も震えている。
「えっと……でも君は……」
『私の名前は川端Aです。異能特務課の者です』
「特務課……君が…?」
『……はい。……私は貴方に、異能力の扱い方を教わりたいんです───武装探偵社の、太宰治さん』
私が探偵社だと知ったのは特務課の情報か。
漸く外套から離された白く細い指先。
その指を今度は地面につき、やがて膝までついた。
「一寸──」
『……強く、ならなくちゃいけないんです。……どうか、お願いします』
其の儘頭を地面に付ける。
強くなりたい、と云うより、助けて下さいと云っているような表情だ。
「……如何して、そこまで…」
『私は、私のまわりの人達を、守りたい』
彼女が震える声でそう言葉を紡いだとき、自分の中の何かが、ぐらり、と揺らぐ音がした。
一先ず女の子を何時までもこの状態にさせる訳にもいかないので、「…取り敢えず、顔を上げて。膝も汚れてしまうよ」、なんて言葉でその場で立たせた。
彼女は真っ直ぐに私を見詰める。
だから、答えなくては。
「……私はただ異能無能化の異能を持っているだけだ。探偵社の社長のように、異能を制御する異能を持っている訳でもない」
『……』
「はっきり云わせて貰うけれど。君は素質がない。君の性格に、異能力が合ってないんだ。だからいくら操り方を教えたところで、強くなる保証なんて何処にもない。
だから君が今からやろうとしていることは、全てが無駄になるかも知れない」
目を見開いたあと、直ぐに答えた。真っ直ぐな眼差しで、それでも良い、と。
『……私は何時かこの力で、誰かを傷付ける日が来るかも知れない。……だって私、異能の扱いが下手ですもの。その時に、自分が傷付ける相手を、自分で守れるようにしたいんです。……それくらいで、良いんです』
彼女は泣きながら笑っていた。
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お湯(プロフ) - 桜月さん» わわ、ありがとうございます…!1話から…!とても嬉しく思います!たくさん感想をくださりとても幸福です。こちらこそありがとうございました……!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 櫻宮麗子さん» これからの彼女たちに幸福があるといいですね…!読んでくださりありがとうございました〜!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - 完結おめでとうございます!1話からとても素敵な作品だなと読ませて頂きました!最終回の感動と終わっちゃうんだなぁという寂しさが…!お疲れ様でした!もし次回作などあれば、楽しみにしてます!ありがとうございました!(*^^*)長文失礼しましたっ! (2019年9月9日 16時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮麗子(プロフ) - 最終回、おめでとうございます!救われた彼女がこれからどうなっていくのかが気になります・・・!また彼女たちに会えることを楽しみにしていますね、本当にお疲れ様でした! (2019年9月9日 8時) (レス) id: 3300853b00 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - ゆきんこさん» ありがとうございます…!更新が遅れて申し訳ありませんが、どうか完結までお付き合いいただけると幸いです(*^^*)更新精一杯頑張ります…! (2019年8月27日 22時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2019年6月2日 10時