194.かなわない ページ16
Aside
翠蘭華を手にしてからあっという間に一年が過ぎていった。ただでさえ厳しかった稽古が刀のせいで余計に厳しくなったこと以外はいたって変わらない普通の生活を送っていた。
もちろん総悟とも一本杉の下で遊んでいる。
ただ一つだけ悩みがあって、なんで私が翠蘭華に選ばれたのかいまだに納得がいっていなかった。私よりもお姉ちゃんの方がしっかりしてるし強いのに...
誰にも言えなかったけど正直、翠蘭華の主人になったことが不安で仕方なかった。
A「ねぇお姉ちゃん。」
姉「どうしたの？」
A「ちょうちょ結び教えて！どうやってもできないの。」
姉「いいわよ。」
ササッと私の前で結んで見せるお姉ちゃん。
A「早くてわかんない〜もっとゆっくり！」
姉「あはは、ほんとにAはちょうちょ結びが下手ね。剣筋はとてもいいのに。」
A「むぅ〜、私にだってできないことくらいあるもん。」
姉「そうねぇ、でもAが翠蘭華を引き継いでくれてよかったわ。」
A「私はお姉ちゃんが選ばれると思ってた。こういうのは不器用な私なんかより器用なお姉ちゃんのほうがむいてるよ。」
姉「何言ってるの！選ばれたのはAなんだよ。その刀を扱えるのも守れるのもあなただけ。だから胸張っていいんだよ。」
A「ありがとう、お姉ちゃん。あっ、結べた！」
姉「綺麗にできてる！Aはやればできる子だよ。だからどんなに辛いことがあっても絶対乗り越えられる！だからこれからも頑張ろう、お姉ちゃんがずっと一緒にいるから。」
A「うん！」
お姉ちゃんは私の気持ちを見抜いていた。やっぱりかなわないな〜自分を理解してくれるひとがいるってうれしい。
でもこのときの私は思ってもいなかった。こんなに平和で幸せな時間はそう長くは続かないってことに。
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作者名：千穂 | 作成日時：2020年7月12日 10時
