本当の過去 ページ38
「こっち、リビング。今みんな出かけてて、私しかいないんだけど。」
若干の気まずさに言葉を乗せて、彼女は喋る。
「えーっと…お茶、でいい？」
「あ…いや。いいよ、気つかわないで。」
「でも…。」
「お母さん。」
この人はあの日
私を置き去りにして帰ってこなかった。
それは事実だ。
だけど今、
私たちの間に
そんなに距離があってたまるもんかと思う自分がいる。
「私たち、親子だよ。お茶なんて出す必要ないでしょ？」
その言葉に、彼女の後ろ姿がぴたりと止まった。
「A…。」
彼女の肩が、小刻みに震え出す。
この人もきっと
その細い背中の上に
何か重いものを背負っていたんだ。
「聞かせてほしいな。あの時のこと。」
この顔に浮かべた笑顔が、作り笑顔じゃないと言えば嘘になる。
でも今、この人の前で
笑っていたいと思ったんだ。
「…うん。」
鼻をすすると同時に、彼女がこちらを振り返る。
真っ赤に染まったその下まぶたが
何故だか愛おしく思えた。
「あの日…Aをおひさま園に預けたのは、決してあなたとお別れしようだなんて思ったわけじゃないの。」
「…うん。」
「ありもしない疑いをかけられて、周りの人にとやかく言われるあなたを見て 本当に悔しくて、悲しくて。」
涙交じりに、一つ一つ言葉を選びながら
その人は話し始めた。
辛い過去の記憶
でも。
「ただあなたを、守りたかった。」
その一言だけで
全てがあたたかく、流れていくような
そんな感覚に襲われた。
「だからお父さんと相談して、離れた場所に引っ越そうって決めたの。だけど準備に時間がかかるから、その間だけでもあなたを周りの環境から引き離さなきゃって思って、一時的に園に預けたの。」
さあ
長い時を経て知る事実に
私の感情は耐えられるだろうか。
「すぐに迎えに行くつもりだった。だけどそれからすぐに、Aの脳腫瘍が見つかった。…それを私たちが知ったのは、あなたがアメリカへ発つ日の朝のことだった。」
あの日は、たしか_________
空は一面灰色で
冷たい雨が降っていて
ひとりぼっちを
これでもかという程に味わった日だった。
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やっさん(プロフ) - もちまる。さん» 素晴らしい内容です。夢主さん、良かったですね(^o^)v。しかし、人生の本当の勝負はこれからですぞ〜(^^) (2020年10月27日 20時) (
レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
一郎太と士郎が好きな者♪リン(プロフ) - 何か今更感溢れてるんですけど、完結おめでとうございます！(一年ぐらいたってるのにww) 私が占ツクを始めるきっかけとなったこの作品。 完成度が高くて、私もこんな作品を書けるような作者になりたいです！ ありがとうございました！！ (2020年4月22日 1時) (レス) id: e6fb3fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
きらら(プロフ) - やーだもう…青春…たまたま見つけて流れ読みしてきたら3時間前に完結してたんですけど…完結おめでとうございます！ (2020年3月30日 3時) (レス) id: 36a6836253 (このIDを非表示/違反報告)
shoto(プロフ) - もっと評価されるべき。最高。こんな最高な作品と夢主ちゃん、野坂君を書いてくれて本当にありがとうございます。 (2020年3月29日 22時) (レス) id: ef163209c8 (このIDを非表示/違反報告)
ユキウサギ - とても良かったです！！！！ 野坂さん最高ッス！！！！！！！！ (2020年2月27日 22時) (レス) id: ce069fbf80 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もちまる。 | 作成日時：2019年4月27日 23時
