キミとお前と、俺の見ている世界2 (ページ50)

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第94話ページ50

『センセッ！今の奏は何ッ！？

もう一回ウチに聞かせてッ！』

興奮気味にウチでそない言えば、疑問に思えたんかセンセは意味分からん言う顔でウチを見ている

葵「…ショパンの12のエチュード作品10の事か？

どこから聞いている？」

『えっ…？』

葵「何分前の奏を言っている？

それによって始める場所が変わって来る」

ウチは「ショパンの12のエチュード」っちゅーもんをその時知っていないから、センセの言ってる言葉の意味はよう分からんかった

今ウチで知ってる事は、ショパンのエチュードって言うんはピアノの練習曲にショパンっていう昔の偉大な音楽家が描いた、ピアノ界隈では有名で難易度も高い12個くらい演奏する曲が並んでいる音楽やっていう事

それからこのセンセは、その難易度の高い曲を何食わぬ顔で12曲全部自分で弾いてたって言う事

ほんで「何分前から」が分かれば、12個あるうちの何曲目から弾き直せばええんか瞬間的に理解のできる頭を持っとる、とんでもなく思考の循環の速い人間やったって事

これは「本物の天才や」ってウチで分かったんは、その事情がウチで理解できるようになってからの数分後の話で、その前のこの瞬間はウチで何て答えるべきか分からんでいた

『えっと…

多分ウチで歩いてここまで来たんに2分もかかっとらんで』

葵「なら第12番「革命」だけで良いな？

俺も初めから弾き直すのは少し面倒だ」

そない言うてセンセはまたピアノに向かって身体を傾ける

ほんで肩を動かすでもなく、静かに指と手首だけを気持ち悪い－－これ褒め言葉になるんやけど－－動きで滑らかに動かして、とんでもなく速い動きでピアノの上を駆け巡るその神様みたいな手にウチは目を釘付けにされていく

『…！！…うわ…』

葵「…何を驚く？これくらい普通に誰でも弾けるだろう？」

『いや、無理やんね…

って…ウチの声これで聴こえとるん？

話してて音切れないん？』

葵「切れない

むしろ声をかけられた程度で途切れてどうする？」

『うぇ、マジで…？

…センセすごいな…』

ウチはウチと話をしていてもクオリティをなお変える事のないセンセの演奏に感心を通り越して若干引き気味になって、その実力をウチでひしひしと実感していた