第97話 ページ4
乱「…お前は、よく分からない人間だね
消して欲しいのか、生きていたいって言いたいのか、僕には訳が分からないよ」
『…「生きたい」言うんは思ってへん
でも別に「死にたい」とも思ってへんで』
乱「…なら、何を考えてるの?」
『…せやな、「潰して欲しい」って思ってるんと違う?』
乱「何で?」
『…潰して欲しい事に理由なんているんかいな
例えば、「今コーヒーが飲みたい」っていう事に理由なんかいるん?』
乱「…ッ…!」
『「コーヒーが飲みたい」言うんとウチの「潰して欲しい」言う感覚は同等や
「その程度」の思いでしかあらへん』
話をすればするほど訳が分からないのと同時に、何だかその「誰か」に嫌気を覚える
コーヒーの例えはともかくとして、「その程度」の「具体性にも欠けた一時の気の迷い」みたいな感覚を軽々しくも口に出して言うのが気に入らない
だけど逆に疑問に思える
だって、「それ」は「命」に関わる問題でしょ?
なのに何で「コーヒーが飲みたい」と同じ感覚でしかないと言えるの?
コーヒーは別に生きていくのに必要な要因ではない
だけど「生死そのものの問題」は当然「命」に直結する
そのお前の「命」を、持ち主のお前が「その程度」と思う理由は一体何?
乱「…やっぱり訳が分からないよ、お前は」
『…よう言われる
けどウチからしてみればアンタさんも訳が分からんわ
「初めまして」や言うんに、何でこない深入りしてくるん?』
それが警戒心故の発言ならどんなに楽に扱えるのだろう
単なる疑問か、あるいはもっと極端に言えば「会話の一部以外の何者でもない」と言われているようなその調子に、完全にこっちがペースを崩される
乱「…何でかな
僕も忘れた」
『…そか
ウチの兄貴の事色々聞かせてくれておおきに、ウチも心して兄貴に取り合うわ』
それだけ言ってその日の「悪」は僕の目の前から消えていった
会話を始めているのは僕の方なのに、僕の目的を満たす真似もしないで、完全にあっちのペースで僕を引き摺り落として
乱「…」
それだけでそいつを「殺したい」理由は十分あったって言えると思う
因縁も確執もないのに、生まれて初めて「純粋な殺意」を抱いたのは、その「悪役」が初めてだったように思える
だから「殺してやるために」僕は動いた
あの日本当に僕が手をかけるその日まで、僕は「その悪役を殺すために生まれた予定調和の英雄」にさせられていたんだ−−−−
15人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ユウ | 作成日時:2021年8月8日 8時