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第88話 ページ43

ジェイドside


ジェイド「…!?」


そして彼女は僕の後ろにある棚から徐に鋏を取り出すと、それを握り自分の髪を反対の手で握りしめる


正気ですか、と言いたい気持ちが上回ってくるのに、あまりの驚きで声も出ない


何を考えているのか


何を今からしようとしているのか


「予想はついている」筈なのにそれを理解する事がどうしてもできない


…シャキン…


ジェイド「…!!」


そして言葉も出ない間に、彼女の髪ははらはらと床に散っていく


髪を切る間に流れる時はあまりに静寂に包まれていて、いつ彼女が髪に鋏を入れたのかすら僕には理解に追いつけない


『…髪がなくなるんは別にええんよ

けどそれが分かっててなくなったんか、ウチにも分からんで消えたんかは感じ方がちゃうやろ?』


ジェイド「…!!」


『そういう意味でウチは「弱る」言うたんよ

別に髪が短くなったってウチはウチでウチなりに生きるだけやけど、ウチは「変化」が本来は苦手や

せやから変えられる前にウチが自分で運命を握るんよ

ウチが分かってて起こした変化なんやったら、それは「ウチが自分でやった事や」って事にしてまえるからなぁ』


そう言う彼女は笑っている


切った髪を握って、まるでそれが「元は自分の一部だった」という事柄ですら振り返るような真似をしないような物言いで


ジェイド「…」


そして僕はそれと共に感じる


彼女は「少し異常な人間」だ


「変わっている人間」ではなくて、「異常な部分が何かある普通でない人間」


何かが大きく壊れていて、そして何かが異常に歪んでいる


だけどそれが「日常」、あるいは「普通」の中に溶け込んでいるから、それが「普通でない」という事に焦点を当てる真似も許されない


何かが異常に欠けている


でもそれを意識的に指摘できない


まるで「紡ぐ言葉を奪われてしまっている」かのような焦燥感を覚える


ジェイド「…」


『…どないしたん?』


ジェイド「…いえ…」


言える言葉がなくて、まるで魔法にかけられているかのような気分になる


魔法の使えないはずの彼女は一体僕に何をもたらしているのか


あるいは何故僕は、「これくらいの」事でここまで言葉を詰まらせているのか


何も、理解できない


ジェイド「…髪は大切にすべきです

整えるか、あるいは元に戻して差し上げますから、もう自分で髪を切るのは止して」


やっとの思いで紡ぐ事ができた言葉は、彼女に向ける親切心のような言の葉になっていた

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作者名:ユウ | 作成日時:2021年7月31日 13時

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