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〜 一年前 〜
母「A、今日お母さん夕方から出かけなきゃだから 早く帰ってお父さん見といてくれる?」
『えぇー、今日 友達にヴァイオリン聴いてもらう約束してるんだけど。』
母「そんなのいつだってできるわよ。
お父さんは少しでも目を離すと危ないの。」
『はいはい。』
父は心臓に持病があり、悪化したため入院を勧められたものの 家から出るのはストレスだと在宅療養を選んだ。
酸素マスクで繋がれた顔はまさしく生きた死人のようなもので、元気など微塵もなかった。
『いってきます。』
母「いってらっしゃい。」
私はいつも通り学校へ向かい、授業を受け 友達と話しながら土手を歩いた。
「ねぇ、ヴァイオリン聴かせてくれないの?」
『うーん...家は近所迷惑になるし...』
「ここの河川敷なら弾いてもいいんじゃない?」
「ホントだ!いいね、ここで弾いてよ! 」
『えぇ...でも...』
「ちょっとだけでいいから!」
ちょっとだけ、その言葉につられ 私はヴァイオリンを取り出した。
〜♬ 〜〜♪ ♬ ♪♪〜〜
息を落ち着かせその音色を辺り一面に響かせた。
土手を通る人は次々に振り返り、感心した顔で立ち止まる。
『ふぅ!どうだった?』
「やっぱりすごい!時間忘れるくらい!」
「ホントだ!もう暗くなり始めてる!」
『やばっ!』
気づけば時間はかなり過ぎていて、夕日が沈みかけ 辺りは暗くなり始めていた。
私は急いでヴァイオリンをケースになおし、全力で走った。
きっといつものように寝ているだろう、そう思いながら帰ったのに.....
____ピーポーピーポーピーポー
『え.....?』
母「A!何してたの!
今日は早く帰ってって言ったじゃない!!」
家の前に救急車が止まり、運ばれてきた父が乗せられた。担架に乗った父の顔には生気がなかった。
『そんな...お父さ...』
その夜、父は息を引き取った。
夕方 母が出かけた後 いつの間にかマスクが外れ、そのまま呼吸ができず死に至ったようだった。
もし私がすぐに帰っていれば、父は助かったのだ。
『ごめんなさ.....ごめんなさい!...ごめん...なさい』
私はその場に立ち尽くした。
もう父は帰ってこない、その罪悪感やら自分自身を憎む気持ちから 私は二度とヴァイオリンを手にする気になれなかった。
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あおい(プロフ) - 早く見たくなりました (2019年6月19日 1時) (レス) id: 295447971a (このIDを非表示/違反報告)
いくら(プロフ) - ゆーしゃんさん» ありがとうございます。頑張ります! (2019年6月18日 14時) (レス) id: acf637b564 (このIDを非表示/違反報告)
あおい(プロフ) - 早く見たくなりました (2019年6月18日 12時) (レス) id: 295447971a (このIDを非表示/違反報告)
ゆーしゃん - すごい面白いです!更新頑張ってください!! (2019年6月17日 22時) (レス) id: 579758a02c (このIDを非表示/違反報告)
いくら(プロフ) - あおいさん» ありがとうございます!更新頻度は低いですが、これからもよろしくお願いします。 (2019年6月16日 22時) (レス) id: acf637b564 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:いくら | 作成日時:2019年5月15日 22時