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『……楽しいですよ?』
この時間がもっと続けばいいなと
思うくらいには楽しい。
こんな風に外に出るのも、
ご飯を食べるのも、
友達と話すのも、
全部全部久しぶりで、楽しい。
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でもどこか、心にポッカリとあいた
隙間が埋まらない感覚は、
日常に急に現れた坂田さんという存在に
私が慣れすぎてしまってたからなんだろうな。
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話せなくて当たり前、
顔を見れなくて当たり前、
前まではそうだったのに。
ただの赤の他人、
ただの活動者とリスナー、
それだけの関係だったのに。
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「……今くらい泣いたっていいんだぞ
ここには今、俺とお前しかいないしさ」
優しい声のトーンで、
キヨさんは私に言った。
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嬉しいけど、そんな優しい言葉、
私にはもったいない。
ここで私が泣くわけにはいかない。
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だって、泣きたいのは、
泣くべきは、きっと私じゃないんだから。
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『私が泣くのは、違うじゃないですか。
今一番泣きたいのはきっと、
私以外のリスナーの皆さんなんです。』
『私なんかが、坂田さんの妹に
なってしまったのが悪いんです』
「A」
『リスナーなのに、家族になるなんて、
有り得ませんよね。軽蔑されて当然です』
「おい」
『私だって、私なんか最低だって、
キモイって、クソだって、私なんか、
私なんか消えちゃえばいいって、』
「もういいって!
…………もういいから。
ちょっと俺の話聞いてくれ」
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私の止まらない自己嫌悪を遮った
キヨさんの表情は、
今までに見たことがないくらいの
悲しみと怒りで満ちていた。
やっぱり軽蔑されたのかな。
気持ち悪いって思われたかな。
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「俺はさ、さかたんの妹になったのが
Aで良かったなって思ってんのよ」
「今仲良くしてるからとか、
友達になったからとか、そんなんは
一旦置いといて、の話ね?」
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「俺、お前はいい奴だと思うよ。」
「いっつもさかたんに迷惑がかからないかとか
そんなことばっか気にしてよ、
自分がしんどいとかキツイとか傷つくとか
そんなことは二の次でさ?
いくらリスナーだとしてもよ?
そこまで自分を犠牲にして人を思えるって、
お前のすげぇところだと思うのよ」
真剣な眼差しで話してくれるキヨさんの目には
心なしか、涙が浮かんでいるように見えた。
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純白 - めちゃめちゃに好きです。続き楽しみにしてます。頑張ってください (12月28日 18時) (レス) @page32 id: cf53fa4fa8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:やまだ | 作成日時:2023年7月4日 4時