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「気は済んだかよ」
ひとしきり泣き喚いて腕の中でしゃくりを上げていた私の背中をぽんぽんと叩く弔さん。
「…はい。ちょっとだけスッキリしました」
「そう」
あんな醜態を見てもなお呆れる素振りもなく受け止めてくれる弔さんは本当に思いやりのある人だと思う。
対して今日の私はなんだか取り乱してばかりだ。
「…忘れてください」
「それは無理があるだろ」
ですよね。
涙で赤くなった目元を擦り、合わせる顔がなくて俯いたままでいると弔さんは大きくため息をついた。
でもそのため息は呆れというより安堵からくるような声色でつい顔を上げると目線が合った。
「…全部嫌いだったんだ」
「…？」
「この世の全てに苛ついて憎くて仕方なかったんだよ、ずっと」
するりと髪を梳く指先がくすぐったい。
五指でなくとも自らの意思で個性を発動できるようになったにも関わらず、長年の癖が抜けないのか中指だけは触れずに浮かせたままだ。
「けどお前とこうしてると…憎悪も怒りも苛立ちも、全部忘れそうになる」
不思議だよな、と少し笑いを含んだ声がこの広い空間に響く。
部屋一面の大きなガラス窓から見える夜景は騒々しく煌めいているのに、今私たちがいるこの空間は静かすぎて視覚と聴覚の情報がちぐはぐだ。
やけに静かだけどこの階にはもしかして弔さんの部屋以外ないのだろうか、とぼんやり考えているとより一層強く抱き締められて一瞬で思考は弔さんに塗り替えられる。
弔さんの心音、弔さんの匂い、弔さんの体温、弔さんの声、全てを自身に焼き付けるように抱き締め返した。
「こんなに好きなモンができるなんて、思わなかったなぁ」
4ヶ月の時が経っても、絶対に忘れないように。
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作者名：さかさま | 作成日時：2022年4月20日 22時
