215 ページ21
「はぁ…」
私はなんてことをしてしまったんだろう。
弔さんに向かってあんなことするなんてどうかしていた。
「どうした？ため息なんかついて」
「いえ、お気になさらず…」
高級寿司を前にして盛り上がっている空気の中、一人ため息をついている私に気づいたスピナーさんはサーモンを口に運んでこちらをちらりと一瞥した。
心配してくれるのは有り難いが、場の空気に流されて弔さんに強引に迫ってしまったなんて口が裂けても言えない。
本当に何で自分があんなことをしたのか、我に返った今全く当時の自分を理解できずにいた。
自分の欲求を優先して主を意図的に困らせようとするなんて、仕える者としてあってはならない最大の不祥事だ。
そんな感じで自己嫌悪も程々に、私もようやくズラリと並んで輝くお寿司に箸をつける。
「仁くん手使えなくて大変だねぇ」
「トガちゃん！あーんして！」
集会が始まるまでの間アジトの一室で待機していた私たちの元に用意された特上寿司はなんと弔さんからの指示らしい。
放浪生活をしていた頃にミスターが寿司を食べたいと言っていたのを覚えていてくれたのだろうか、彼のそういうところが私は大好きだ。
マグロをひとつ箸にとって、そのついでにちらとテーブルの向かい側にいる例の彼を盗み見る。
隣のミスターの話に相槌をうちながらお寿司を口に運ぶその様子をついじっと見続けていると、
「…あ？」
「っ！」
視線に気づいたらしく声を上げた弔さんに、私は慌ててわざとらしく顔を逸らしてしまった。
今朝から何度目かのこのやり取り。
アレの後、我に返り羞恥と居た堪れなさでいつも通りに接することができない私に、弔さんももちろん原因には気付いているからかあまり深入りせずどうしたもんかと頭を掻きながら呆れの混じった困り顔。
私が意識しすぎて切り替えができないばかりに申し訳ない。
けれど今の弔さんの姿は正直、ずるい。
リデストロが用意したというだけあってひと目見て高級だとわかる黒いスーツに、ファー付きのこれまたいかにも高級感漂うワインレッドのロングコート。
最高指導者に相応しい装いをとリデストロがチョイスしたこれらを身に纏う弔さんはそれはもうお似合いで素敵で格好良くて。
今までラフな格好をしているところしか見たことがないというのも相まって、レアなスーツ姿に私は大変ときめいてしまっていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 470人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さかさま | 作成日時：2022年4月20日 22時
