帰る場所 ページ26
Takanori.I
Aをベッドで寝かすと、Aはゆっくりと息を吐き出した。
泣き疲れたAは、俺から離れないまま眠った。
酒も入って珍しく絡み酒して、使わない体力を使ったんだから当然かなって。
「……」
俺はそんなAの頬を、指の背で撫でる。
スベスベしてて、スキンケアに気を使ってる肌。
沢山の不安なことを抱えながら、今日まで走ってきたA。
きっと、孤独だったんだろうなって思う。
あんまりマネージャーとも関係は良好って訳でも無さそうだし。
出会った時は、いつも元気で明るい印象だった。
けどいざ話してみると、頭の回転は良くても、黙り込む子。
自分の気持ちは上手く言葉に出来ないんだろうなって思った。
初めて酔って泣き出した時も、何とか気持ちを吐かせたかった。
ずっと辛そうだった彼女を見たくなかった。
「これからは、俺が居るよ、A」
付き合ったあの時も、口にした言葉。
この子には、愛してくれる人が、少な過ぎた。
自分を守っていく上で、手にしたものは嘘をつくこと。
そういう世界だけど、けどこれは重すぎるんじゃないかって思う。
「A、愛してる」
俺はそう言ってAの額にキスをすると、Aの隣に体を沈めた。
軽く抱き寄せた彼女の温もりを感じながら、夢の世界に入る。
その時、願わざるを得ないと思う。
どうか幸せな夢を見てほしいと。
.
.
.
『朝……？』
その声で目が覚めた。
そこにはAがダルそうに目を覚ましていて。
『ベッド……』
「おはよう、A」
『あ、おはよう剛典くん』
Aの顔はどことなくスッキリしてて。
そんなAの顔に手を当てて、優しく撫でる。
するとAは気持ち良さそうに目を細めた。
『昨日は、ごめんね』
「何も気にしてない。
けど、昨日の話を聞いて思ったことがある」
『ん？』
「一緒に暮らそう」
Aは不安そうに目を揺らした。
「ツアーとかの時期は寂しい思いさせてしまうと思う。
けど、俺の帰る場所になって欲しいのと、それから、」
少しずつ、お互いの目に溜まる涙が、
「俺が、Aの帰ってくる場所に、なりたいって思った」
同時に流れ落ちた。
俺も、Aも、年甲斐も無く泣いてて。
「俺もまだ未熟だから、まだ言えないけれど。
でも、ずっとAを支えたいと思う」
誰よりも頑張っている君を守りたかった。
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作者名：雪乃 | 作成日時：2023年6月22日 19時
