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あれ以降、玉森は私の喫煙時間を予測するかの様に決まって屋上にやってきた。挙句の果てには似合わないからこれを舐めろといってキャンディを差し出してくる始末だ。しつこい。そして時間通りにやってくるこいつがキモい。
「お前はストーカーか」
「俺の勘はあたるんだよ〜」
なんでだよと白煙を吐き出す。体に染みるニコチン成分。白煙と共に体の不純物が抜けていくようだ。まあ、その分、毒物を取り込んでいるんだけど。
ゆらゆら昇っていく白煙を玉森はぽやぁと見つめる。いやに整った顔とモデルのような体型。晴れ渡り、雲一つない澄んだ青空。ファッション紙から飛びたしてきたようだ。こいつに似合わないなんて言われたら、ぐぅのねも出ないではないか、なんて。
「Aはなんでタバコを吸うの?」
「うっさいな」
「不安?」
不安、このモヤモヤした気持ちに名前をつけるとしたら、そうかもしれない。白煙と共に吐き出したかったのは、きっとそうかもしれない。
「煙はなにも、助けてくれない。俺は助けられるかもしれないけど」
にっこり。笑う玉森は同じ高三には思えなくて。その彼の細長い指が私の口から白い筒を掠め取った。ああ、まだ吸える。もったいない。そして、代わりに口に広がるイチゴの甘さ。さっきのタバコをの苦さと混ざって、正直ゲロまずい。
「別に。ちょっと休憩してただけだよ」
将来の夢はない。思春期特有の恋愛に理想もこれと言ってない。友達と遊んでたら、いつの間にか高三になってた。友達は進路も、恋愛もいつの間にか道を見つけていた。一人だけ、おいていかれた。一気に目の前に扉がいくつもできたけど、どれを選んでいいのかわからない。
「逃げてきたの。踏み込めなくて。」
われながら小さい人間だと思った。簡単だ。選べばいい。間違ってもいい。それを責める人間など、私の周りにいないことはわかってる。責められるとすればこの迷ってるこの瞬間なのに。
「じゃあ、俺が背中おしてあげる」
玉森の指がすぅと頬を撫でた。相変わらずスキンシップの激しいやつ。瞳は熱っぽく揺れて、ああ、夏の暑さにやられたな、と思った。
玉森という男はきっと気まぐれで、そのうち今放った言葉も、行動も覚えてないやつなのだろう。それでも、今はこの男にすがっていたいと思ってしまった。
「まず、俺に溺れて、そのあと一緒に将来を見ればいい」
そのあと降ってきた口づけは私とは違うタバコの味がした。
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sakadachi1111(プロフ) - 由貴さん» 長編に引き続きコメントありがとうございます!続編がありそうな短編ばかりで申し訳ないです…!頑張って更新していきたいと思いますので懲りずに見に来てやってくださいね! (2016年2月8日 7時) (レス) id: 781f4e9332 (このIDを非表示/違反報告)
由貴(プロフ) - こんばんは!!面白いです!!続きが気になります!! (2016年2月8日 1時) (レス) id: bf39404b50 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかだち | 作成日時:2015年6月9日 10時