涙が枯れるほどに Ki ページ11
北山 宏光が鱚舞大学に進学しない。その事実は同じ大学に行くと思っていた私にとって、かなりの衝撃だった。
鱚舞学園は中学から大学までエスカレーターの学校で他校への進学は珍しい。
その話題は当然本人に行き渡り、ミツに直接クラスメイトが聞くと本人は否定しなかった。なぜ教えてくれなかったという言葉にごめんな、と謝罪を繰り返していた。
ミツが決めた道だ。私やどうこう言う資格なんてありはしない。ただ、ミツと一緒にいれるのがあと少しの期間しかない。そう思うだけでたまらなく苦しくて、胸が痛くてどうしようもなかった。
「A」
「…ミツ」
みんなの前で泣くとかそんなことできない。悟られないように、悲しみに気づかれないように日々を過ごしていた。それでも、ふとした瞬間に甦るのはこの馬鹿の顔だ。
「鱚大…行かないんでしょ?」
「おう。…あんなにびっくりされるとは思わなかったぜ」
俺って人気者!なんて軽口を叩いている割には瞳は切なげに揺れていた。
六年間過ごしたこの学校を去る。これを決めるまでにミツはどれだけの苦悩と葛藤を重ねたんだろう。サッカーも友達との楽しい時間を捨ててまで。きっとミツが一番辛いはずなのに、ミツは笑ってる。だから私も、笑顔で送り出さなきゃいけないのに。
「歌手になるんだって?」
「そ。すぐプロになってやるぜぃ」
「その前にめり込んで消えてなくなってそうだね」
「なんだとぉ?」
こんな光景はいつも通り。授業中、休み時間、たくさん過ごしてきたし、これからも続くと思っていたのに。
「北山!昼飯いこうぜ!」
「おう!」
じゃあなと去っていくミツの背中が切なく大きく見えた。
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sakadachi1111(プロフ) - 由貴さん» 長編に引き続きコメントありがとうございます!続編がありそうな短編ばかりで申し訳ないです…!頑張って更新していきたいと思いますので懲りずに見に来てやってくださいね! (2016年2月8日 7時) (レス) id: 781f4e9332 (このIDを非表示/違反報告)
由貴(プロフ) - こんばんは!!面白いです!!続きが気になります!! (2016年2月8日 1時) (レス) id: bf39404b50 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかだち | 作成日時:2015年6月9日 10時